えびちゃん

スウィート・シングのえびちゃんのレビュー・感想・評価

スウィート・シング(2020年製作の映画)
4.5
純然たるヒューマンドラマを観た。
体感180分くらい。なんせ途中から息苦しくなるほど目を背けたくなるほどつらい現実がある。
姉のビリーと弟のニコ、親の不在の中でお互いが文字通り心と身体を寄せ合って生きていこうとするロードムービー。
髪のくだりさぁ、ニコがビリーと同じであろうとしたところはもう…かなり泣けてしまった。
よくある子供の冒険物語は大人たちへの反発がベースになりがちだけど、彼らはただただ生きていくための行動だったんだよな。彼らと同じように親に問題を抱えた少年マリクとの邂逅(『ムーンライト』を彷彿とした!)を迎えて、あたたかい他者との関わりも交わって、決して他人に絶望しない子供たちが脆くて強い。
お父さんが大黒柱じゃなくたっていいし、お母さんがご飯を作ってみんなの帰りを待っていなくていい。弟がアウトローだっていい。子供たちは急いで大人にならなくていいよ。家族の形にべきべきした正解は必要ない。少し心を寄せ合っていればいいと思う。
ビリーの心がしんどくなるタイミングで現れるイマジナリー ビリー・ホリデイ。心に母然としたビリー・ホリデイを住まわせ守り闘い抜いたビリーは抱きしめたくなるほど愛おしい。これからは少しずつ、ビリー・ホリデイが消えていくといい。
劇中の挿入歌がわたしのプレイリストかと思うほど好きな曲ばかりで嬉しかった。
Something On Your Mind / Karen Dalton https://youtu.be/dttjjRWV87g
Sweet Thing / Van Morrison https://youtu.be/JFAp3aRJ2vA
Pata Pata / Miriam Makeba https://youtu.be/JBJVVhn7iuo
ここぞというタイミングでこの選曲。でも過剰に感情を揺さぶってこないさじ加減。
最近のイケ曲ではなくちょっと古めのルーツ系の選曲だったり、弟もニコだし、マリクのJimiぽい衣装はその辺の音楽好き層をだいぶ意識していそう。
アレクサンダー・ロックウェルは2作目だけどこのいかにもインディペンデントな手弁当感がとても好き。16ミリフィルムで撮られた映像はプライベートフィルムのような質感で懐かしさを覚える。
こういう純然たるヒューマンドラマがずっと観たかった。
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