ワンコ

COME & GO カム・アンド・ゴーのワンコのレビュー・感想・評価

4.0
【希望の地】

監督のリー・カーワイさんと、俳優の渡辺真起子さんが舞台挨拶でおっしゃっていたように、この撮影が行われた2019年から、世界ではコロナだけではなく、色々な出来事が起こった。

アジアでは、香港に対する中国の支配強化、台湾に対する中国政府の威嚇、そして、ミャンマーの民主派の排斥と軍事政権の再支配だ。

(以下ネタバレ)

この作品は、監督だけではなく、俳優もアジアの多くの国から参加している。
そして、大阪を舞台にしてはいるが、日本の多くの暗い部分……、格差、男女格差、貧困、留学生や外国人差別・貧困、不法就労、不法滞在、搾取、すれ違う男女、許されないのに惹かれ合う男女などの場面を散りばめ、なんとかやり過ごして生き抜こうとする姿や、法律を犯してまで抗おうとする姿を一定の距離感で、敢えて抑揚を抑えて見せようとしているように感じられる。

観る側に、客観的な判断を委ねようとしているのか、それとも、観る側に、登場人物の立場になって考えてみろと要求しているのか。

僕の拙い情報では、アメリカの平均時給は、円に換算すると1800円程度で、もし、アメリカの大学生が、シリコンバレーだけではなく、一定のハイテク集積地でインターンの職を見つけられると、日本の平均賃金を大きく上回る収入が可能なのだそうだ。
日本的に言えば、たかだか大学生のアルバイトでだ。

コロナでインバウンド需要も激変しただろう。

中国は共同富裕を掲げて規制強化を更に強めており、マカオのカジノは、その最も影響を受けている対象だ。
海外への資金持ち出しも規制の対象になるはずで、万博後に予定されているカジノを中心としたIRに明るい展望はない。
横浜は撤退を決め、横浜を拠点に進出を画策していたフェニックスサンズは、とうの昔に計画を取りやめにしていた。

過度なサービス業への傾倒は、大阪のものづくりを衰退させた大きな理由のひとつだろう。

この映画で描かれている人々のことを考えると、多くの企業が本社を東京に移し、名古屋が製造業輸出の拠点としての地位を大きくするのに対して、衰退する大阪を”ある”断面から見せているような気にもなる。

毎年、同じように桜は咲く。
来年も再来年も、10年後も20年後も。

大阪は、日本国籍者にも外国籍者にも希望の地であり続けることは出来るのだろうか。

だが、これは大阪だけのことではない。
日本の縮図でもあるのだ。

希望の地であり続けられるためには、どうしたら良いだろうか。

なんか、考えてしまう。

この作品に、ミミ役で出演していたミャンマーのナン・トレイシーさんからの手紙を渡辺真起子さんが舞台挨拶で読み上げていた。

台湾のカーションさんや、ベトナムのリエン・ビン・ファットさんはビデオメッセージを寄せていたが、現在のミャンマーの政治情勢で、移動はおろか、それも叶わなかったらしいのだ。

制作された際は、多くの国で往来は容易で、中国政府の規制や思想統制も、今よりは緩かったように思う。
だから、中国から参加していたゴウジーさんや、香港から参加していたシウさん、先に言ったカーションさんが一堂に会して撮影なんてのは、今後難しいのかもしれないと考えると暗い気持ちになる。

分断や過度な思想統制、軍事支配からは、希望も、何も生まれないと思う。
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