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ザ・フラッシュの都部のレビュー・感想・評価

ザ・フラッシュ(2023年製作の映画)
3.7
同じ世界観を舞台としたシリーズ作品ながら作品内外共に連帯感を損ない続けたDCEUの暫定的な最終作に位置する本作は、タイタニックも沈む直前に真っ二つになった姿こそが華であったように、コミックを原作としたアメコミ映画 本来の愉快さや面白さを追求した完成度を誇る墓碑として非常に楽しい作品となっている。

本作をDCEUの最終作と形容したが、しかし予想外にも単独作として自己完結的な筆致で終始この物語は語られており、マルチバースが齎しがちなサプライズ要素に決して囚われることなく あくまでこれはバリー・アレンの物語であると貫徹した佇まいは、間違いなく本作に対する私自身の高評価の一因である。ノスタルジーを刺激するキートン版バットマンの再来や新鋭のスーパーガールによる活躍を確保しながらも、その操縦桿を手渡すことなく語り部の物語を第一として語る割り切り方は、この最低限の構成でも144分という尺を要するのだから必要不可欠な判断と言えるだろう。

既存のアメコミ映画とは異なる表現&演出を創成するべく意図的に崩したCGIを駆使する試行錯誤ぶりは、本作の中で目まぐるしく一長一短を繰り返すが、その甲斐はあって作中で『画期的』『斬新』と取れるような目新しさを感じさせるシークエンスの作成にも成功している。同様に画として違和感を覚える場面があることは否定しないが、青天井の下でその超人性を振るう場面の数々は興奮を掻き立てるに違いない。

冒頭から高速で展開される物語は基本的にコメディベースで、エズラ・ミラーの卓越した演技力により演じ分けが成された二人のバリー・アレンの邂逅から物語は更に愉快に加速していく序盤〜中盤はかなり良かった。しかし作品全体のプロット──やりたいこと 言いたいことと言い換えても良いかもしれない──を思うと、バットマンの協力を仰ぐ スーパーガールの協力を仰ぐ二つのイベントは些かの足踏みを感じさせ、そのテンポを持ち崩す場面もあったことは否めない。作品の全体像が徐々に明らかになり、序破で撒かれた要素が急でバリー・アレン個人の物語に収束する終盤になると物語の面白さは最高潮に達するだけに残念だ。

異なる世界の自分と邂逅を果たして、行動を共にする内にお互いが相補的に影響を与え合い、やがて個人の葛藤に結論が示され そこ関係もまた臨界点を迎える──そうしたプロットにフラッシュとしてのオリジンを落とし込んだ改変の仕方も感心するポイントで、母の死を回避する為の物語がなぜどうしてそのような形で着地を迎えるのかというロジカルな物語の組み方は肌に馴染む語り口である。DCEUの終焉の瞬間にヒーローオリジン/ヒーローライジングの両方を兼ねた第一歩の物語を製作して公開するのはどうにも後始末感が拭えないのは事実であるが、だからこそと言わんばかりに一人のヒーローの葛藤と決意の物語を走り切る意義はあったと思わせる作品であることに違いはないだろう。
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