ちろる

メトロポリス 完全復元版のちろるのレビュー・感想・評価

メトロポリス 完全復元版(1926年製作の映画)
4.5
フリッツ・ラングがマジックのような手法を駆使してSF映画の頂点を目指した古典SFの名作。
古典の無声映画だと思って軽く見ていた。
このダイナミックさ、奥深さまで1927年の映画だとは到底思えない。
数あるSF映画を観てきたが、そのほとんどがこの作品を通過した事を深く頷くしかない。
アンドロイドの登場シーンは現代で観ても遜色ないほどに斬新で美しく、1000人近くのエキストラを起用したラストの脱出シーンも目を見張る。
資本家VS労働階級にクローズアップした普遍的なテーマながらもその構造は決してシンプルではなく、特にこの物語のヒロインであるブリギッテ・ヘルムの聖なる存在と、悪のアンドロイドの両極端のコントラストのある演技がものすごい。
間違いなく画質は悪いのに、ほとんどが全く同じルックスではっきりと使い分けるその演技はこの作品の奥行きをさらに深くしている。
ちなみにこの作品の舞台は2026年当時は途方もない未来のお話だったのだろうが、私たちにとってはもう遠くない数年後の未来。
フリッツ・ラング監督が作り上げた未来都市とは少し違うけれど、私たちの世界はものすごいテンポで進化していって、このような恐ろしい事が待ち受けていないとは言い切れない。
不安な世界情勢だからこそ、たった一つの影響力支配者に翻弄されて、善悪の境界線や価値観があっという間に変わってしまうかもしれない。
そんな現代の私たちへの警告のような可能性も秘めたこの作品が果たして単なる古典名作と言っていいのか?と問いかけてくるものすごいエネルギーを感じる作品でした。
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