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黒い罠 完全修復版のakrutmのレビュー・感想・評価

黒い罠 完全修復版(1958年製作の映画)
3.8
アメリカとメキシコの国境地帯を舞台に、時限爆弾の爆発事件を巡るメキシコの麻薬捜査官とアメリカのベテラン刑事の争いを描いた、オーソン・ウェルズ監督のフィルム・ノワール映画。ウィット・マスターソンの小説『Badge of Evil(邦題は映画と同じ)』を原作として、オーソン・ウェルズ監督自身が大幅に脚色している。今回鑑賞したのは、ユニヴァーサルが勝手に再編集した劇場公開版ではなく、その行為に激怒したオーソン・ウェルズが本作に対する自分の意見を述べた58ページのメモに基づいて再編集したディレクターズ・カット版(正確には修復版)である。

フィルム・ノワール自体がそう言えるのかもしれないが、この映画はそこで描かれている内容よりも、用いられた撮影技法に注目すべき作品である。特に度肝を抜かれるのは、冒頭に出てくる車に爆弾が仕掛けられてから爆発するまでの長回しのシーン。自由自在にカメラクレーンを操って、道を進んでいく車と道を歩く麻薬捜査官夫妻を横断的に映す3分強の映像はとても印象的。事前に知らなかったが、映画史に残る長回しシーンとのこと。その他にも、ローアングルから見上げるように撮影することで、オーソン・ウェルズ扮するベテラン刑事の威圧的な態度を表現したりと、撮影技法に見どころは多い。

一方で、物語内容はそれほど面白くない。最初はチャールトン・ヘストン演じる麻薬捜査官とマフィア一家との抗争に、捜査官の妻(ジャネット・リー)が巻き込まれるという形で進んでいくが、途中からオーソン・ウェルズ演じる刑事が悪者になっていく部分が結構いい加減に見える。オーソン・ウェルズの演技がちょっと劇画チックなのも気になった。邦題はもっと原題に忠実でいいのでは。
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