horahuki

The Strange Vice of Mrs. Wardh(英題)のhorahukiのレビュー・感想・評価

4.5
血の魅力!

金持ち!誠実!優しい!そんな夫に「つまんねぇ…」と感じた奥様がワイルドなイケメンと不倫。そしたら不倫現場を目撃した誰かに「金払わないと夫にバラすぞ!」と脅迫されちゃう。怖いから待合せ場所に親友を行かせたら殺されちゃったんで、自分はワイルドイケメンと高飛びするマルチーノ製ジャーロ。

セルジオマルチーノにとってのジャーロデビュー作。ジャーロの中で5本の指に入る…だったり、『歓びの毒牙』とともにジャーロ映画全体を代表する…だったりと高い評価を受けている傑作。58年のFenaroli事件と『悪魔のような女』から影響を受け、ジャーロの基本形とされる『デボラの甘い肉体』『歓びの毒牙』の諸要素を組み合わせた内容。ただ、マルチーノ監督は『歓びの毒牙』からの影響は否定しているらしい。

元々オーストリアのウィーンに住んでた奥様は、当時付き合ってた、必殺技が往復ビンタのDVクソ彼氏が嫌で、その正反対のアメリカ人投資家夫と結婚したんだけど、夫の仕事の都合でウィーンに帰って来ることに…。往復ビンタ男に見つからないかビクビクしてたら、案の定初日に対面。往復ビンタから逃げつつ、親友に紹介されたワイルドイケメンと不倫してたら、女性ばかりを狙った連続カミソリ殺人に巻き込まれていく…て流れ。

真っ暗な道を行く車。その路肩に見本市のように並ぶ娼婦たちからひとりピックアップして殺人がスタートするオープニング。黒の濃さと娼婦たちのカラフルさの対比からして4Kレストアの美しさを存分に堪能できた感があって、冒頭からテンション上がった!そして多→個のターゲッティング、殺人のタイミングで合わさる旅客機映像をプロローグに配置するのは次作『The Case of the Scorpion's Tail』でも形を変えて反復していることから考えてもマルチーノさん好きなんやろね。飛行機好きとか何か可愛いわ🤣まあ『The Case of …』では木っ端微塵にしてたけど笑

そして、プロローグが開け、エスカレーターに乗る女性たちを次々に捉える映像に娼婦の見本市から意図が引き継がれ、それが最終的に主人公である奥様へと及んでいくあたりで本作の展開暗示がさり気なく為されるのも相変わらずの手堅い演出。『サイコ』からの影響が窺える浴室での殺人シーンや、後の『四匹の蝿』に影響を与えたと言われるシーン等印象に残るものが多く、延々と室内での動作をトラッキングし続ける長回しによる違和感を演出したかと思えば、殺人鬼側との細かなカットバックでスリルを与えたり、何でもない日常的事象の積み重ねが婉曲的な嫌を高めた直後に、犯人を視認してしまったが故の直接的な恐怖へとバトンタッチを試みたり、ひとつのシークエンスで多種多様な恐怖をミックスさせているのが面白い。「規則正しい日常音」が不安の増幅に効果的に利用され、鍵の開閉にも信頼を置いているのも流石のマルチーノ監督。

「君の中のダメな部分(本能)が最高なんだよ。それはオレのものだけどね」と書かれたキモい手紙や、「1人の男から全て(安定、性、血)を手に入れようと思わない方がいい」という親友の言葉、そして冒頭に引用されるフロイトの通り、奥様の内面にメスを入れる精神分析的ジャーロの色合いが非常に強い。本作に登場する3人の男がそれぞれを体現し、キモい手紙に書かれてるような「ダメな部分」と理性の間で葛藤し続ける奥様が描かれるのだけど、理性が完全敗北していく姿を悪夢的に観客に見せつけつつも、覚めることなどないという現実を突きつけてくるのも非常にジャーロ的で好み。

これも最初っから男殺人鬼に徹してるので男殺人鬼④
これは評判通り、ジャーロの中でもトップクラスに面白いと思う。多分マルチーノ製ジャーロの最高傑作じゃない?『影なき陰獣』Blu-ray化したんだから、コレもサッサと発売すべき!!
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