みやび

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのみやびのレビュー・感想・評価

4.5
一作目はタイトルの通り観る側をマルチバースへと引き込む役割、そして二作目となる本作は多様なマルチバースが交錯するという拡張の役割。
さらに今までにあるマルチバースを扱った作品とはまた違った新しい視点のマルチバースが展開されていく。
本作はまさにシリーズものの始まりと終わりを繋げる役割を持っている。
物語が全て終わることなく次作へと持ち越されるラストシーンは、絶望的な状況ながらも希望が見える終わり。
何となく「スターウォーズ帝国の逆襲」を想起させられた。この作品も三部作の中の真ん中の役割を持っている。
囚われたハン・ソロを救出するために結束する仲間たちと、別アースへ飛ばされてしまったマイルスを救うためにバンドメンバーを集めるグウェン。
個人的にかなり似た構図になっているなあと考えた。
この構図は観客に次を想像させるという効果を持っており、シリーズの繋ぎの役割を持つ作品として完璧な立ち回りだと思う。

スパイダーバースシリーズの最も優れた部分はやはり革新的な映像体験にある。
前作でもその魅力は他のアニメーション作品と異なるレベルにあった。
「3DCGアニメーション」と水彩や油彩、ペン画など様々な表現のある「手書きアニメーション」が掛け合わされた革新的な表現は本作にも引き継がれており、さらに本作は前作よりもさらにパワーアップした映像が私たちをマルチバースの世界へと引き込んでいた。
レゴのストップモーションアニメや実写、鉛筆デッサン、キャラクターの心情によって変化する色彩など、前作で再現されていたコミック風という幅を超えたものがそこにはあった。
人間が現段階で表現することのできる最上級のものを魅せてくれる、それだけで本作は観る価値がある!!

スパイダーバースシリーズで描かれるテーマは「運命」。
これはスパイダーマンはそれぞれ運命を受け入れ強くなってきた〜というヒーローの鉄則的なものが根本にあると考えられる。
前作ではマイルスが伯父を失うという「カノン」を経験することでスパイダーマンとしての運命を受け入れヒーローとして強くなることができた。
これが前作で描かれた「運命を受け入れる」ということ。
対し、本作で描かれるのは「運命を壊す」ということである。
スパイダーマンとしての正史を歩むために、どの次元でも「カノン」は彼らには避けては通れない道となっていた。
個人的に、恋愛ゲームでいうイベント的なやつだと考えるとわかりやすい。
物語を前進させる、つまりはスパイダーマンとして先に進むためには、たとえそれが両親であったり恋人、友人など自らの大切な人の命をも見捨てなければならない。
そんな運命ってどうなの?自分の物語は自分で紡がせろ!というのが本作で示される問いなのかなと。
自分の人生は自分が選択し紡いでいくもの。
これまでのエスカレーター的な社会構造から自らを表現する力が求められる現代。
多様性がどうたらと言いわれながら、世間に放り出され、立場も行き場もない若者に寄り添うテーマになっていたと思う。

本作にはまだまだ語りきれない魅力が詰まっている。
グウェンのバックボーンや、メタ的な構造、社会における若者の立ち位置、、。
正直ここまで深い映画だとは思わずに何となく再生したが、本当に感動した。
前作の僕のフィルマを見てくれればわかると思うけど本当に前作は刺さらなくて。
だからそんなに期待してなかったし、marvel熱も皆無の状態で観た。
完全に食らったね。泣いた。この映画に勇気をもらった。
ヒーロー映画として完璧な役割を果たしてくれた。
最高に大傑作。ありがとうスパイダーマン。
みやび

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