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人数の町のKUBOのレビュー・感想・評価

人数の町(2020年製作の映画)
4.5
これは最高に好きだった! 怪獣は出てこないけど、『ウルトラQ』の『開けてくれ!』とか、『ウルトラセブン』の『狙われた街』とか好きな人は絶対好きなゾクゾクっとする”if”の世界。

まず着想が好き! 

借金取りにボコボコにされていた蒼山(中村倫也)は、黄色いツナギを着た男に助けられ、ある宿泊施設に連れてこられる。ここでは全員ホテルのようなところで個室を与えられ、衣食住を保証された上で、プールで優雅に楽しみ、気に入った相手がいればフリーセックスが楽しめる。ただ彼らには、不思議なお仕事と、いくつかの制約があった…

【これ以降『人数の町』でどういうことをさせられるか、についてネタバレをした上でのレヴューになります】




この作品、本当に脚本がよくできている。借金苦、夫からのDV、犯してしまった罪などから逃げ出して、どこか別の世界に行きたい者たちを集めて、判断能力の要らない「人数」としての作業と引き換えに、衣食住とセックスを保証する。考えようによってはユートピアのような世界だ。

そして、彼らがすることになる作業が、SNSでディスって炎上させたり、褒めちぎって評価を上げたり、

どこからか集めてきた他人名義の投票用紙を持って各地の投票所を回り、指定された候補者に投票する、とか、

まだ認可の降りていない薬の治験のモルモットになるとか、

みんな、ありそうな仕事だ。

日本の行方不明者は毎年約80000人もいるらしいが、この「人数」をこんな風に利用しながら権力側の都合のいいように使っていたら…、そら恐ろしい。

最初戸惑ってばかりだった蒼山(中村倫也)も、謎の美女ミドリ(立花恵理)と仲良くなって、それなりに馴染んで居心地よくなってきたところに、妹を探しに来たという紅子(石橋静河)が現れて…


で、この世界をどう着地させるかがポイントだな、と思って見ていたけど、

ラストシーンも好き! やっぱり、こうくるよね、と。ラストの後に石坂浩二のナレーションと共にウルトラQのテーマが流れてもおかしくないと思った。(オールドファンにしかわからない表現でごめんなさい(^^))

これが初監督作品だという荒木伸二監督。脚本もオリジナルですごい才能だ。これからも要注目です!

これ見て、一番怖いと思ったのは、ここにずっと住んでいたいと思いそうな若者はいっぱいいるだろうな、という現実。コロナもあって失業者も、負債を抱えた者もいっぱいいる「今」の社会で、ホラー映画以上の薄気味悪さを感じた。




【この後、完全にネタバレの感想&疑問】




*一番不自然に思ったのが、首の裏に埋め込まれたマイクロチップを除去しようと誰も試みないこと。他のSF映画などではみんなやってるしね。

*もう一つ不自然だったのが、すごい仲良くしてるのに、ミドリ(立花恵理)が蒼山(中村倫也)とのセックスを拒否したこと。本当に好きな人とはセックスしないとか、ミドリには何かあるのかな?
(ちなみに立花恵理さん、ちょータイプ! カードあったら速攻渡しに行く!!!)

*ストーリー上の演出で言えば、紅子と会って蒼山が「愛してる」と言うまでが急で唐突。それまでほとんど疑問に感じていなかったような蒼山が、いっしょに逃げようと言い出すのも、もう少しそこに至る心の変化を描けていたらもっとよかった。
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