櫻イミト

夜よ、こんにちはの櫻イミトのレビュー・感想・評価

夜よ、こんにちは(2003年製作の映画)
4.0
「ポケットの中の握り拳」(1965)などで知られるイタリアの重鎮マルコ・ベロッキオ監督が実際に起こった“赤い旅団”によるイタリア最大のテロ事件を映画化。音楽はピンク・フロイド。

1978年、イタリアの極左集団「赤い旅団」は首相アルド・モロ氏を誘拐した。監禁アジトで唯一の女性メンバーであるキアラは次第に葛藤を抱えるようになるが。。。

「赤い旅団」の事件を知らなかったので興味深く観た。テロルを否定も肯定もしないスタンスで、監禁する者とされる者の日々を淡々と描いている。映画の大半が一軒の家の中で進み大事は起こらないが、長いとは感じなかった。女性テロリストが心の迷路をさまようサスペンスとして観ながら、権力とテロル、人が人を裁く事、殺人の重さなど様々なことに思いを巡らせた。実際には55日間の出来事でありテロリストと被害者の心理に近づくためには必要な上映時間とも思う。

モロ首相が解放され歩き回る幻想シーンは、韓国映画「オアシス」(2002)を連想した。主人公は首相を拘束監禁しながら、自身の心がイデオロギーに拘束監禁されていることに気付いていく。鳥かごから姿を消したカナリアはその予兆を示している。

シンプルに観ることができる一方で、深い考察のしがいがある一本。イタリアではベルトルッチ監督と並び称されるベロッキオ監督。他の作品も観てみたい。

※監督が本作のモデルにしたのは「赤い旅団」の女性元メンバーによる手記「囚人」。

※家族パーティーで皆が歌うカチューシャの替え歌は、イタリアのレジスタンスに伝わる有名な歌詞「風が笛を吹く」。
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