えいがうるふ

PIG ピッグのえいがうるふのレビュー・感想・評価

PIG ピッグ(2021年製作の映画)
4.5
いい意味で思ってたんと全然違った。
なんてったって我らがニコラス”仕事選ばない”ケイジ主演だし、大切な豚を奪われた主人公が無茶なやり方で奪還するアクションコメディだろうと思うじゃないですか。それが蓋を開けてみればコメディどころか、ひたすら静謐で行間がたっぷり取られた演出がジワジワくる激渋なドラマだったなんて。

しかもまさかの飯テロ映画。
料理とそれにつながる一連のシークエンスがとても丁寧に描かれていて、かの名作「バベットの晩餐会」を思わせた。お品書きの内容からしても(ジャンルは全く違うが)オマージュといってもよいかと。
エンドロールにちゃんとそれぞれの皿を手掛けた料理人の名前がクレジットされているあたりにも、プロフェッショナルへのリスペクトを感じ好印象。

非常に印象的だったシーンのひとつが、売れ線に迎合しスノッブなレストランのシェフに収まったかつての部下を訪ねるシーン。
生き方がブレない強者とブレまくる弱者の対峙。役者それぞれの演技力が秀逸で、表情とセリフの応酬になんとも言えないヒリヒリするような切実さがあり釘付けになった。

登場人物が皆それぞれに哀しい過去と闇を抱えていて、しかもいずれも詳細は最後まではっきりとは語られない。結局何も解決もしないが、垣間見せられた過去が隠し味となって深い後味が残る演出になっていた。
そして、締めくくりが甘ったるくないのも素晴らしい。
まさに全体の味のバランスが絶妙で、エブエブのジャンキーな味に文字通り閉口した後の口直しには最適の、お腹も心も満足できるフルコースだった。