仮面の大使

護られなかった者たちへの仮面の大使のレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
4.1
 護られなかったものたちと護ることができなかったものたちを描く映画。

 東日本大震災から九年後、宮城県で全身が縛られ、餓死させられるという事件が二件起こる。捜査線上に浮上したのは、利根泰久(佐藤健)。利根は餓死した三雲忠勝(永山瑛太)、城之内猛(緒方直人)にある恨みを抱いていると思われていた。利根の目的、そして過去のある因縁が解き明かされるとき見えてきたのは切ない真実だった・・・。

 東日本大震災という天災が奪っていった、息子や妻や母などの家族の命。これは天災。でも今作で取り扱われている遠島けい(倍賞美津子)の死は生活保護を受けられなかった人災。救うことのできた命であり、今回の犯人の悔しさはよく分かる。実際、永山瑛太演じる三雲の薄気味悪さは殺したくなるほどむかつくものだ。

 だけど、作中でもある人物が言っていたように、死んでいい人なんて一人もいない。正直、対応はあまり良くなかったと思う。それでも彼らは彼らなりに多くの人を救おうという意思はあった。原理原則を守る。多くの人を救うためにこれが必要だと三雲は考えたのだろう。

 一方の犯人の考えは違う。犯人は生活保護が最初で最後の砦だと。だから原理原則に縛られていては救える命も救えないと。この問題に正しいとかないと思うけど、三雲も犯人も両方正しいと思う。

 でも、両方正しいなんていえるのは、震災を経験してない第三者だからかな。もし、自分の身内や大切な人が原理原則に従い、生活保護を受けられないとなったら、そしてそのせいで死んでしまったら、自分は一体何を恨むだろうと思うと、やはり犯人と同じく原理原則に従って対応したあの人たちを恨むのかな。

 震災で失われた命。護れなかった命。それでもこの人だけは護ろうと奔走する人を、護れなかったことを胸に抱えながら生きている人を、護られなかった憎しみを抱えて生きてきた人を描く魂が震える傑作映画でした。

 清原果耶、佐藤健、阿部寛らが素晴らしい演技で魅せてくれました。

 最後に。襖の文字で号泣。あれはずるいよ。
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