櫻イミト

裸者と死者の櫻イミトのレビュー・感想・評価

裸者と死者(1958年製作の映画)
2.5
ファスビンダー監督のオールタイムベスト2位。「イングロリアス・バスターズ」(2009)でブラッド・ピットが演じたアルド・レイン中尉は、今作で俳優アルド・レイが演じた非情な軍曹が元ネタ。

映画は日本軍が死守する太平洋の孤島にアメリカ軍が上陸作戦を決行する様子を通して人間ドラマを描く群像劇。戦斗描写はリアル志向で話は淡々と進み、敵も味方も主役格でさえあっさりと絶命するドライなタッチ。なので、最後に兵士が「愛こそは権力に勝る力」とを語るのだが映画的な共感には至らなかった。

原作はアメリカで大ベストセラーになったノーマン・メイラーの戦争文学「裸者と死者」(1948)。自身の出兵体験を元に戦場の兵士たちの死と向き合う裸の心を写実的に表現するもの。兵士たちひとりひとりのデティールが細かく描き込まれ、大きなテーマは”自由の国アメリカも戦場ではファシズムを起こしている”という疑問提示。

映画では個々人の裸の心までは描き切れていないと感じたが、ファシズム的な心の動きは伝わってきた。ファスビンダーが今作を気に入っていたのはその部分と非情なタッチなのかもしれない。

※この映画は本来「狩人の夜」(1955)の監督チャールズ・ロートンと主演ロバート・ミッチャムのコンビで引き続き制作する予定だったのが、「狩人の夜」の興行的失敗で変更になったとのこと。二人の映画で観てみたかった・・・。
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