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海を待ちながらのbarakachanのネタバレレビュー・内容・結末

海を待ちながら(2012年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

アラル海が舞台。現在のように干上がる前のアラル海で大嵐にあい、妻と船員を失った船長が、数年後、海が消え、干上がった故郷に戻り、錆びついた船を海に戻そうとする。

とんでもない話に聞こえるが、映画のあとの坂井弘紀先生の話によると、実際、灌漑政策の失敗によりアラル海は10%にまで干上がったそう。

フドイナザーロフが描く世界は相変わらずどことなく不思議。干上がった夢のような白い砂漠、そこにある錆びついた船…それらはファンタジーではなく現実に存在することに恐ろしさを感じた。

坂井先生の話は面白く、当地の口承文芸には、バルサ・ケルメスという言葉があり、行ったら戻れないという意味とのこと。またその名を持つ島がアラル海には存在してたとも。

通常、難題譚では、英雄は難題をクリアして帰ってくる。この話を難題譚としてみると、最後、それとは逆に、海が戻ってきた、ということになると。

そして、その最後の場面、私が印象的だったのは、ヨハネの黙示録がでてきたこと。

"わたしはまた、新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去り、海もなくなってしまった。"

ルナパパでもそうだけど、全てに別れを告げ、新天地に進む主人公。
彼らは戻ることなく、過去に別れを告げ生きていく。日本では馴染みの少ない中央アジア。その中でも内戦があったタジキスタンで生まれ育った監督ならではの感覚なのかな。

映画では、海を奪われた民の悲しみ、苦しみも随所に描かれていた。
彼のタッチでファンタジー風に描くも、アラル海問題を真正面から描いていて、たくさんの人に観てほしい。

今回の映画祭、4本全部観終わってしまった。今生きてたら、ウクライナのことをどう描かれてただろう。夭逝されたのが悔やまれる。
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