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空白のJPのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.4
▼痛みを伴う鑑賞体験

あの辛すぎる事故描写がきつすぎて、見返すのが怖かった。「ミッシング」が「空白」と密接に繋がって生まれたと聞き、勇気を出して見直したが…
やっぱりとんでもない傑作だった!

▼言葉の暴力の連鎖と伝染

白眉は、やはり直人が「のり弁」にクレームを入れる場面。暴力的な言葉を浴び続けてしまった人は、あんなふうに他者を過剰に攻撃し、傷つけるようになってしまう。その醜さと怖さ、その後の自殺未遂へ導かれてしまう弱さ。

▼地獄の先に待つ、美しいエンディング!

醜い人間、恐ろしく怒る充、汚い言葉遣い、海のゴミ、地面に落ちた食材…
暴力とハラスメントの表象をひたすら見せられた後、終盤になんとも美しい場面が用意されているのがずるすぎる。

「別にスーパーが潰れても誰も困らない」と自暴自棄になり、自殺まで図っていた直人が、終盤に出会う兄ちゃんに「今までありがとうございました。お疲れ様でした」と言ってもらえる場面の美しさ。

祖母が言ったように、逃げずに真面目に向き合ったり、話し合うことはできなくなった直人。充が花音のカバンのキーホルダーを付けているのを見て、ただ謝罪するだけのロボットになってしまっていた。
そんな彼の壊れた心を救うのは、「ありがとう」「お疲れ様でした」の言葉だった。言葉によってついた傷が、言葉により癒される。「世の中そんなに悪いもんじゃないから」という直人の祖母の言葉が、本当になって返ってくる幕引き。
充が花音の絵を見つけるあの場面も好きだが、こっちも美しい…。
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