ぎー

望みのぎーのレビュー・感想・評価

望み(2020年製作の映画)
3.5
【堺幸彦特集二作品目】
なにが"望み"だ。
この映画を見た後に感じるのは"怒り"しかない。
どうしてくだらないいざこざに善人を巻き込むのか。
どうして他人の生命を奪わなければいけないのか。
全く理解できない。
確かに現実でもこういった若い友人グループ間のいざこざで若者が生命を落とすことはある。
ただ個人的見解としては、そうはいってもここまで善人な一般男子が深く巻き込まれて、殺されたり人を殺したりするところまで陥るケースはなかなか考えられないと思うし、この映画でその間の繋ぎを丁寧に納得感ある形で描写してくれたかというと、そうではなかったと思う。
(善良な一般市民でも、暴力沙汰やグループ間の喧嘩に巻き込まれるリスクは分かるが、生命の奪い合いはどう考えても次元が異なる。)
そうはいっても世の中に絶対などということはないのは事実。
もしかしたら自分の子供がそういった事態に巻き込まれかねないと想像すると恐ろしくなったし、そういった事態に巻き込む主体となる浅はかで短絡的で迷惑な不良に対する怒りばかりが沸々と湧いてきた。

傑作『人魚の眠る家』同様、本作は家族を舞台にしていて、テーマをすごく短絡的に表現すると、"愛する子供に生命を落としていてでも被害者であって欲しいか、殺人者であってでも生きていて欲しいか"ということとなる。
興味深いテーマ設定ではあるものの、個人的には、"加害者でもなく、生きていて欲しい"を望むし、それしか望むところがないため、感情移入し切れなかった。
これを言ってしまっては終わりでしょうと突っ込まれそうなものだが、親とはそういうものだし、あくまでも望みなのだからそう望むものじゃないかと個人的には思うが。

それにしても『人魚の眠る家』にしろ本作にしろ、『TRICK』シリーズや『SPEC』シリーズを手がけてきた堤幸彦監督作品というのはギャップがすごい。
共通しているのは大ヒットしているというところぐらいで、これは本当に良い意味で、芸術家監督というよりも、本当にエンターテイナー監督なのだろう。
少なくとも『人魚の眠る家』も本作も極めてクオリティは高いから、本当に良い意味で、である。

『人魚の眠る家』同様、どこか危うさは抱えつつも、本当に幸せそうな石川一家の様子が冒頭描かれる。
マンション住まいであるが、そのあまりにお洒落な戸建に、戸建住まいを検討したくなったほどであった。
そして『人魚の眠る家』同様、その幸せそうな様子は脆くも崩れ去る。
ただ、息子が反抗期である様子がはっきりと明確に描写されているが故に、『人魚の眠る家』までの地獄の落差は無かった。

父親と母親の対比的な描写も『人魚の眠る家』同様。
強いて言えば理性的な反応をする父親と、強いて言えば感情的な反応をする母親。
母親役を演じた石田ゆり子は見事な演技ではあったが、『人魚の眠る家』の篠原涼子に流石に軍配が上がるか。
いずれにしても、個人的には子供が殺されていることも加害者であることも望むことには、全く共感できなかったが。

"ザ・週刊誌の記者"といった登場人物も出てきた。
藁にもすがる想いの母親が、そんなものに頼るのは危ないと理性ではわかっているのに、情報を得たいがために記者と情報交換する描写は見事だった一方で、ラストで母親に記者が頭を下げる描写が果たして必要だったかどうか、個人的には疑問が残る。

やや共感できなかったり、疑問が残る描写はあったものの、子供が究極の立場に追いやられた極限状態の家族描写は圧巻で、世間から犯罪者の家族として扱われる描写のインパクトも徹底していて圧倒的。
確実な良作である事には間違いない。
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