いろどり

チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ーのいろどりのレビュー・感想・評価

4.0
ロシアの傀儡政権チェチェン共和国。プーチンの息のかかった独裁者は笑顔で、「民族浄化のためにも同性愛者はこの国には不要な奴らだ」と言う。

性的マイノリティだと政府にバレると拷問により殺されたり、仲間の密告を強制され、逆らえば死や家族が狙われる。そのため、同性愛者だとわかると家族からも殺されたり脅迫されることもあるという悲しい国。

LGBTQの人たちにとってなかば生き地獄といってもいい。それでもそんな人たちを助けるロシアの活動団体が存在していることは唯一の救いだった。活動家たちの力により、命を懸けて海外へ亡命したり、人生をかけてチェチェン政府を告発した人を、当局に見つからないようにゲリラ撮影し、チェチェンの危機的状況を暴き出している。

顔バレを防ぐため、フェイスダブルという本来の顔を特殊に加工した技法により、まったくの別人の顔として本人たちが登場している。これはドキュメンタリーとして初の試みだそうだけど、非常に画期的な技法だと思う。実際の肌より全員お肌ツルツルだけど、髪の生え際との境も自然で違和感はあまりなかった。モザイクありの顔や加工した音声のみの登場よりも喜怒哀楽などの表情の変化が分かりやすく、共感もしやすい。

同性愛ということで拷問を受け、チェチェン政府を告発した男性が会見でマイクを握り口を開く瞬間、フェイスダブル加工が外れ、素顔が公開される演出には、本人の命を賭した覚悟が伝わり胸が熱くなった。

この人と恋人は、一生命を狙われる可能性とともに生きていかなければならない。なんて不条理なんだろう。

取り上げられた人の中で行方不明になってしまった人もいた。国家警察に連れ去られてしまったのか、真相は藪のなか。

活動家グループが用意した隠れ家に身を潜めながら亡命申請を受け入れてくれる国を待つも、何ヵ月も受け入れ先が見つからなかったり、家族のもとに国家警察が脅迫に来たり、犠牲者たちの先の見えない恐怖や不安、悲しみが静かに伝わってきた。

身の安全の保障もないなかチェチェンのLGBTQ迫害の犠牲者を救出するロシアの活動家グループの人たちの勇敢な行動は本当に素晴らしい。彼らのような人たちこそ英雄と呼ぶにふさわしいと思う。
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