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野獣の青春のnetfilmsのレビュー・感想・評価

野獣の青春(1963年製作の映画)
4.3
 ホテルの路地裏に人垣が出来ている。やまとホテルの1階の1室で、男女の変死体が発見された。男はベッドに突っ伏すように倒れ、女は彼に覆いかぶさるように静かに死んでいた。陰惨な死だった。刑事は遺書のようなものを読み上げると、「女にこれだけ愛されれば幸せだな」と呟く。男の死体は竹下公一(木島一郎)という現職の刑事だった。陰惨なこの事件を忘れ始めた数日後、威嚇して歩いて回るチンピラたちが1人の男にボコボコにされた。その夜、ホステスたちが集う店にやって来た風来坊の男は、店の者とトラブルを引き起こす。彼の名は水野錠次(宍戸錠)と言い、通称ジョーと呼ばる男は野本組の用心棒の地位を手にしたので、野本組と睨み合っている三光組の小野寺(信欣三)や武智(郷えい治)をひどく刺激した。竹下の49日法要の日、ジョーは悲痛な表情を見せる未亡人のくみ子(渡辺美佐子)に挨拶する。ジョーは刑事時代に竹下と同僚で、罠にはめられ解雇された彼をなにくれとなくかばったのが竹下だった。ジョーは竹下が女と心中するはずがないと独自の捜査を開始した。

 主演・宍戸錠×原作・大藪春彦の2本目の物語は、前作『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』と同工異曲の様相を呈するが、こちらの方が数倍出来が良い。主人公が野本組と睨み合っている三光組双方にその腕で用心棒として雇われる様子は自身の過去作『散弾銃の男』や黒澤明の『用心棒』への目配せが感じられる。当たり前だがプログラム・ピクチュアにはあらかじめ決められた型があり、原作の改変はあっても起承転結の流れは変更のしようもない。だが映像は幾らでも逸脱可能だと言わんばかりに、清順は冒頭から陰惨なモノクロ画面の中で椿の花だけを赤く着色する。それは惨たらしい死を遂げた竹下の警告に他ならない。他にもキャバレーの場面でガラス張りのショー・ウィンドウの裏側でギャングたちがジョーの値踏みをする場面では、十数秒間銀幕から全ての音が消えるのだ。

 そして極めつけは、変質狂の野本(小林昭二)が愛人の三浦佐和子(香月美奈子)の裏切りを知り、彼女を執拗に追いかける場面の狂気のようなループだろう。その瞬間、スクリーンを見つめる我々の目は白昼夢のような恐ろしい世界を目撃する。矢切の渡し周辺のピンク色の鮮やかな桜やスクリーンが暗転した三光組のアジトなど幾つもの清順の意匠が次から次に我々の五感を刺激する。ここに清順美学は文字通り、花開いた。ある意味で記念碑的で、何度観ても痺れる。
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