奇しくも彼女の村は新たに建設されるダムの底に沈むことになっており、彼女を残して旅立った家族たちやその先祖たちの記憶までもが再び死を迎えようとしていた。村人は土地への執着と諦めを"前進"という言葉で無理矢理飲み込もうとするが、老母は受け入れられない。彼女は喪服を着たまま孤独な戦いを始める。それに対して、ダム推進派の村長は頭ごなしに怒鳴りつけ、神父さえも"宣教師がここに来た時、人々は土着の信仰を捨てた"と新時代に迎合する考えを述べるが、老母の決意も人々の決意も変わらない。そんな強固な意思を以て自身の葬儀の準備を粛々を進める老母の最期の旅路は、数々の美麗な舞台とショットの数々で支えられている。ペドロ・コスタ『溶岩の家』のカーボヴェルデをそのまま閉じ込めたかのような艶やかな原風景、亡くなった息子の家にある目の醒めるような鮮やかな青色の壁、ピンク色の花が咲き乱れる薬草畑、草原に"異物"として混入した全身真っ黄色の作業員。思わず唸ってしまうこれらの色彩感覚には圧倒される。しかも、老母を演じる Mary Twala Mhlongo は本作品が映画初出演というのが信じられないくらい風格がある。
【レソトのおばあちゃん念を放つ】 みなさんは「レソト」をご存知だろうか?レソトは南アフリカ共和国の中にある小国の一つでありエスワニティ(旧スワジランド)と共に、世界地理好きの間でも人気の高い国である。さて、そんなレソトから一本の映画が現れた。『This Is Not a Burial, It's a Resurrection』はアイスランド・レイキャビク国際映画祭2020にて最高賞を受賞した他、第93回アカデミー賞にてレソト映画として初めて国際長編映画賞にエントリーされた作品である。そんなレソト映画を観てみました。