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モロッコ、彼女たちの朝のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

モロッコ、彼女たちの朝(2019年製作の映画)
3.3
マリヤム・トゥザニ監督が、過去の思い出をもとに作り上げた長編デビュー作で、日本で初めて劇場公開された長編モロッコ映画。
未婚の妊婦と幼い娘のいる未亡人との交流と素朴なパン作りの日常を通し、家父長制の根強いモロッコ社会で女性たちが直面する困難、不条理を静かに浮かび上がらせる。
原題:ADAM(2019)

モロッコ、カサブランカのメディナ(旧市街)。
臨月のお腹を抱えたサミア(ニスリン・エラディ)が美容師の仕事も住居も失って、仕事と宿を求めさまようシーンからスタート。
やがて、小さなパン屋を営むアブラ(ルブナ・アザバル)と彼女の幼い娘と出会い、彼女の家に招き入れられる。

モロッコでは、未婚の妊婦は“禁忌”。
婚外交渉、中絶、未婚での出産(未婚で母親になること)が許されない社会。
産まれた子どもは"罪の子"として周囲から虐げられ、母子ともに疎まれ、社会保障も満足に受けられず、確実に厳しい人生を強いられる。
そのため、男に逃げられたサミアは、家族や友だちに秘密で子どもを出産し直後に養子へ出して、実家へ戻ろうと固く決心している。
一方、アブラは愛する夫を不慮事故で亡くしたが、遺体と対面することさえ許されなかった過去を持ち、夫との思い出を封印し、心を閉ざしたまま、幼い娘を育ててきた。
夫と死別・離婚した女性の社会的地位もとても低く、再婚せず一人で仕事をして幼い娘を育てることはとても大変。さらに、未婚の妊婦と関わり合えば周囲から後ろ指差されることは必至。

そんな2人の女性はパン作りを通じ、少しずつ心を通わせていく。
やがて、町がお祭りの興奮に包まれるなか、サミアの陣痛が始まり、
長い夜が過ぎ、翌朝を迎える…。

「ママは冷たい」

「生地を分かってない。力を抜いて。触って。優しく。感じて。こねながら感じるの」

「名前は付けない」

「私といれば不幸になる。養子に出せば別な人生が…」

フェルメールやカラヴァッジョに影響を受けたという色彩と映像、
モロッコ旧市街の風景と音楽、
日本で馴染みのない食べ物にも注目。
モロッコ伝統のパンケーキ、手延べ麺のような"ルジザ"を食べたくなるかも。
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