しの

アントマン&ワスプ:クアントマニアのしののレビュー・感想・評価

2.1
量子世界で何を描くのかと思いきや、びっくりするくらい「これSWで見た」しかない。言わばさらに薄まった『スカイウォーカーの夜明け』。カーン導入のための作品でしかないのに彼に魅力もない。これがフェーズ5始動の一作というなら、真面目に付き合う気になれない。

そもそも量子世界だと言っているのにやってることが既視感ありまくりのスペースオペラって何なのか。どう見てもあなた人間なんですけど……みたいな量子人は見ていて冷める。タトゥイーンで見た異星人にカンティーナのような酒場、スピーダーのような乗り物、大量の兵を抱えた「帝国」、対抗する「反乱軍」、あのデザインの廊下での撃ち合いも何度見たことか。しかもその世界の勝手をジャネットが全部知っているので危機感がかなり薄い。骨子は『スカイウォーカーの夜明け』だが、ジャネットがなかなか情報を教えない等の引き伸ばし作劇は『最後のジェダイ』。シークエルの悪いところを凝縮している。何がしたいのか。

何よりまずいのは、これをアントマンでやる意味が一切ないことだ。もはやサイズ変換ギミックすらマクガフィンでしかなく、冒頭のホープのオフィスでのスーツ装着からしてCGも怪しい。スコットというキャラクターの個性も活かされず、親子三世代映画としてのうまみもない。そもそも本作で主人公と娘がどういうドラマ的変化をしたのかすら薄い。確かに、家族としての時間を奪われた一家が、時間を支配するカーンに立ち向かうという構図は面白いが、構図しかないのだ。カーンの「俺は時間を操れるから云々〜」みたいな甘言も、本作を観ただけでは口先でしかないのでドラマになっていない。やっていることはいつものマクガフィンバトルでしかないし。

この肝心のカーンにしても、めちゃくちゃ普通に迂闊なヴィランという印象で、なかなかマルチバース移動船を離陸させられないマヌケさには脱力した。「こいつ怖いですよ!」と示すための脅迫シーンが見ていて恥ずかしい。彼にカリスマ性や魅力がないことの理屈は一応ある(「そういう敵」ですからという)ものの、導入の一作でこれはダメでしょう。

他にも、モードックの扱いなんて正直キャラクターを描くという営みをナメているとしか思えないし、こうなると「キャシーが量子世界にハマってなんか作ったらなんかできちゃった!」の導入からしてナメているように見えてくる。ラストで鼻血出まくってるスコットの顔が次のカットでは綺麗になってるの見て「ああ真面目に付き合う必要ないな」となった。この前の『モービウス』に「ユニバース時代の粗製濫造」と自分は言ったが、とうとう本家がそうなったと確信できる一作だった。「いよいよ本格始動!」みたいな鳴物入りで打ち出された作品がこれとは……。MCU、もうダメかもしれない。

※感想ラジオ
【ネタバレ感想】カーンしょぼい?フェーズ5が心配な『アントマン&ワスプ:クアントマニア』 https://youtu.be/RSAovkUi_-A
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