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多動力 THE MOVIEのドントのレビュー・感想・評価

多動力 THE MOVIE(2019年製作の映画)
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 2019年。堀江貴文の自己啓発/ビジネス書『多動力』をベースに作られた一本。無駄仕事や圧迫感に悩まされつつ働く鈴木と、その先輩かつ副業でバリバリ稼いでいる堀口。消耗ばかりしている鈴木だったがある日突然、惑星直列の影響で会社がビルごと無人島へワープしてしまい……
 奇ッ怪な映画だということで観た。俺はとても真面目なのでハスに構えず、ちゃんと感想を書く。まず「映像作品」としてのテイを成していないというか、編集とか撮影とか色味とか音声とかがあらかたガタガタで、ものすごいストレスが溜まる。
 たとえば同じシーンなのにカットが割られると位置や姿勢が全然違っていたりする。ちょっと変わっている、というレベルではない。背中から正面に切り替わったらいきなり腰に手を当てているとかそういうレベル。音声や台詞の大小もマチマチで聞き取れないことが多々ある。
 普段観ている映画の演出、映像や音声がいかにヤスリをかけられて綺麗に仕上げられているのかよくわかる。というか絶妙にズレているせいで、本作を観た後で口直しにクラシックな洋画をちらりと観たのだが、間違いなく正しく作られているにも関わらず「あれっ……これでいいんだっけ……?」と不安になった。映画は「つぎはぎ」であることを、その拙さによって暴き立てている。暴き立てるな。やめてください。
 演技も、堀口役の人はシュッとしていて声もいいので妙な説得力があり鈴木役の人も善良そうで資本に搾取されそうな感じ、X-GUNの嵯峨根がイヤな上司として好演していたものの、それ以外はなんというかアレで、アレ。常に胸の谷間を見せつけている女性社員とかもいる。なんなんだろう。俺にはよくわからんよ。
 無人島パートからは堀口が原作にある「いいこと」を言うたびに画面暗転、白地でその「いいこと」が字幕で出るという、馬鹿でもわか……とてもわかりやすい作りとなっており、これ自己啓発本で1頁使ってドォンと「いいこと」を書いたり太字にしたりする手口と同じ。ちゃんと読む/観るしなくても、そこだけ頭に入れればいいという寸法である。
 個人的には一点、ワープしても「とりあえず通常業務を続けろ!」と言い、社長が比較的いい非常食を一人占め、などの上司連中が実に日本的狂気を表していて、素晴らしいと思った。どうせなら会社に象徴される日本社会vs自然児となり無秩序の獣と化した堀口の食糧闘争、血で血を争う戦いが観たかった。堀口、興味本位で虫とか喰ってたから脳をやられたことにしてさ。えっそれだと『多動力』じゃない? 知らんよそんなことは。原作だってワープとかしないでしょ。やっちゃえばいいのよ。
「オフィスにはパソコンもついておらず仕事内容が1ミリもわからない」とか「無人島なのに電気は来ている」とか「時間の経過がわからない」とか「バナナ」とか色んなことを言いたいけれど、とにかくお金も技術もセンスも、たぶん時間もない状況下で作られたことが如実にわかる映画だったので、笑いものにしたくない。なんか気の毒である。俺は人が悪いので「これもう、わざとじゃね?」と思ったりもするが、マジでカツカツな状況だったら申し訳ないのでもう触れずにおく。それにしても全体に幼稚だとは思う。
 エンドロールの撮影風景が楽しそうだったのは救いだけれど、これ本当に「楽しく」作れたのだろうかと心配になる。しかしでは、あらゆる映画は「搾取」ではないのか? と問われると答えに詰まる。様々なことを考えさせる映画だった。学びになった。最大の学びは「もうこういう映画は俺、観なくていいな」である。
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