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雪の女王のshxtpieのレビュー・感想・評価

雪の女王(1957年製作の映画)
4.5
ああ、これが有名な靴を川に流すシーンか、と思いながら見た。

若き宮崎駿が、『白蛇伝』と並んで影響を受けたという『雪の女王』。まさに宮崎的な表現のエッセンスが詰まっていて、わかりやすく影響を受けているのが見てとれる。

DVDの映像特典で、宮崎が語っていることがいちいちおもしろい。開口一番に、これは思いを見事に貫いている、一筋の思いを力にしている映画だ、と宮崎は言う。さらに、『雪の女王』を見て、「アニメーションというものが表現の可能性を持っているんだな、と若い時に思った」とも。「アニメーターになってよかったと思えたのは『雪の女王』、アニメーターになったらどうだろうと思ったきっかけは『白蛇伝』」だそうだ。

映画を見たのは練馬の公民館で、労働組合かなにかによる上映。誰かがデンスケで録音したテープを延々と、テープが伸びるまで東映動画の職場で聴いていた。「眼の描きかたに驚嘆した。切れ長の眼ではなく、下に色線を入れると眼差しが優しくなる」、「洗練された無駄のない動きはクラシックバレエだ」、「ゲルダが『カイ!』としょっちゅう言うが、その顔にトラックアップしていく感情表現なんていらないんですよ」といった、アニメーターとしての視点からの指摘もおもしろい。

アニメーションのもとはアニミズムからきているんだと気づいた、さらに『雪の女王』は神話的でもある、と宮崎は物語について語る。ゲルダが靴を川に流すシーンについては、「この主人公はものに守られていたらダメだ」と、ユニークな表現をしている。「物語と、物語を映画にするためにアレンジする人間の中に湧きあがったものが幸せに一致した映画。自分の思いを貫くために周りをひどい目に遭わせる、そういう主人公の映画を、いま僕はまさにつくってる。『ポニョ』っていうんだけれど。ひとに迷惑をかけていくの! 生きてくっていうのは!」と熱く語るくだりには笑った。

山賊の娘の心が溶けるシーンが頂点だ、と宮崎は言うが、私も『雪の女王』を見ていて感動したのは山賊の娘のくだりだった。粗野で荒々しい登場から、洞窟の中で暴力的な立ち居振る舞いを見せるところまで、彼女はものすごく魅力的で、なおかつゲルダの好対照になっている。彼女の存在は、映画においてかなり重要だ。宮崎は、アニメーションがなにに向かって志を持つか、その一番もとにあるのがあのシークエンスだ、と言う。

宮崎は、「いつか雪の女王と同じくらいの純度の作品をつくれたら、どんなに幸せだろうと思いましたね」と感慨深げだ。そういうふうに思わせるほどの力が、たしかにこのアニメ映画にはあった。

ずいずいっと奥行きを感じさせる三次元的な撮影、もやもやっとした光や炎のアニメ表現、氷の輝きの映像化など、神秘的かつ幻想的な画に圧倒される。最もすごいのは、ゲルダとカイの動きで、その滑らかで流れるような運動には感動する。冒頭は、ソ連の映画なのにディズニーっぽいな、色々と問題がありそう、なんて思っていたものの、そんな邪念が吹きとぶ独自性と純粋さ、美しさだった。
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