リンコロシネマ

辰巳のリンコロシネマのレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
5.0
【令和ジャパニーズ・ノワールの最高傑作】

この世界にありがちな義理や人情といった感情を一切排除し無機質な裏世界を描写する中、観客は辰巳と葵の僅かな心情の変化を見逃すまいとスクリーンを凝視する。その緊張感から生み出される集中力こそがこの映画の生命線である。決してド派手な素手格闘シーンやガンアクションがあるわけではないが、優れた脚本と台詞の間(ま)と落ち着いたカメラワークも緊張感を高めるに十分な要素であり無国籍なロケーションと色彩とともに、より一層ハードボイルド感を高めている。

当たり前だがこの稼業(闇社会)に従事したことなどないので裏社会が時代と共に変わっているのかどうかは不明であるが極道映画というのは時代と共に変わりゆく。その推移を(私が観た中で)傑作といわれる作品で追いかけてみると…

昭和43年=仁義なき戦い
昭和58年=竜二
平成22年=アウトレイジ

に続き

令和6年=辰巳

となる。組織の幹部が絡まない『辰巳』は稀有な存在でありアウトローの底辺ゆえ、登場人物の若者たちにどこか親近感すら覚える不思議…。

《あらすじ》
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裏稼業で働く孤独な辰巳(遠藤雄弥)は、ある日元恋人・京子(龜田七海)の殺害現場に遭遇する。一緒にいた京子の妹・葵(森田想)を連れて、命からがら逃げる辰巳。片や、最愛の家族を失い、復讐を誓う葵は、京子殺害の犯人を追う。生意気な葵と反目し合いながらも復讐の旅に同行することになった辰巳は、彼女に協力するうち、ある感情が芽生えていく。
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監督の小路紘史は2016年公開の『ケンとカズ』以来、長編2作目というが知らなかった…俄然『ケンとカズ』を観たくなったがアマプラやU-NEXTなどのネットでは配信しておらず中古DVD(新品がなかった)をポチってしまった。これから追いかける価値のある監督と確信する。

主役“辰巳”を演ずる遠藤雄弥は『俺たちに明日はないっス、』や『ヒミズ』など数多くの作品に出演しているようだがちょっと私の記憶にない。こちらも要チェック。

葵役の森田想(こころ)は“どこかで観たことあるな…”と思っていたら私の大好きな映画『アイスと雨音』(監督は:松居大悟)で主演した女優さんだった。他にも『タイトル拒絶』や『君は永遠にそいつらより若い』にも出演していたのか…

遠藤雄弥と森田想は6/21公開予定の『朽ちないサクラ』(監督は『帰ってきたあぶない刑事』の
原廣利、主演が杉咲花)や来年1/17公開予定の『室町無類』(監督:入江悠、主演:大泉洋)に揃って出演しているようなので観に行こうと思う。

それからやっぱり後藤剛範くんのあの容姿は宝だ。

それにしても久しぶりに画面から溢れるパワーを感じた自主制作映画だった。やはり私はインディーズ映画が大好きだ。もちろんメジャー大作も嫌いではないが。

こんなに素敵な映画が人知れず公開されているのだから、もっとたくさんの人に観てほしいと願うばかりである。