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リチャード・ジュエルのEDDIEのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.5
メディアリンチを今まさに問う。一夜にして英雄となった男は一変して容疑者に。シリアスでのめり込める内容ながら、コミカルさも忘れないイーストウッド節。息子と母、弁護士の信頼し合う関係性に涙した。キャシー・ベイツの名演に要注目。

さて、早くもクリント・イーストウッド最新作ですよ。『運び屋』は昨年の3月公開、1年経っていないですからね。
本作でスポットが当たったのが実在の人物リチャード・ジュエル。1996年のアトランタオリンピック開催地にて起こった爆破事件で、いち早く爆弾の存在に気付き、観客を避難させて一躍時の人となりました。
とはいえ本作の予告を観るまではリチャード・ジュエルの存在すら知りませんでした。アメリカではきっと有名人なんでしょうね。
ただ彼が事件後に歩んできた道のりは途轍もなく険しいものでした。

主人公リチャードを演じるのはポール・ウォルター・ハウザー。『アイ、トーニャ』でとんでもないクズ野郎を演じたことで記憶に新しい彼ですが、今回は一変してヒーローになり、そして容疑者扱いなわけです。
そんな彼の弁護を引き受けたのがサム・ロックウェル演じるワトソン・ブライアント。序盤に彼らの出会いから関係性を深める模様が映し出されますが、それがあったからこそ事件後の彼らの信頼関係に強く感情移入して観ることができました。
そして、本作の重要人物の1人として無視できないのがリチャードの母ボビ・ジュエル役のキャシー・ベイツ。彼女の演技は素晴らしいものを見たなという感覚です。表情一つとっても彼女の不安が伝わってくるほどでした。
私自身の話になりますが、高校生の頃に父を亡くしており、所謂母子家庭なんですよね。だからリチャードとボビの2人を我ごとのように見てしまいました。なんだか他人事とは思えなかったんですよね。

まぁ私は欧米の人々のようにハグしたりと愛情表現豊かに接するわけではありませんが、2人が信じ合い想い合う様子が凄く響いたというか。

あとはリチャードとワトソンの関係も無視できません。彼らの固い絆は話が進むほどに強固なものになっていきましたし、最初は部下と上司、後輩と先輩のような関係性から徐々に対等になり、まるでバディムービーを見せられているかのようでした。
コメディチックなやり取りは笑わせてもらったし、リチャードが初めてワトソンに向けて感情をぶつけるシーンは心が震えました。

ヒューマンドラマとして上質な内容ながら、本作の本質はメディアや司法の在り方でしょう。前提としてここで語られるメディアがすべて悪いわけではありません。人間としての欲、記者としての正義感で、度肝を抜くようなネタを世間に公開させようと思うのは自然なことです。ただその裏付けが薄いと問題だし、良かれとして執筆した記事が1人ないし多くの人々の人生すら変えうるわけです。それが本作におけるオリビア・ワイルドが演じるキャシー・スクラッグスです。彼女が真実を知ったとき、また自分が信じた内容と異なる結果が出てきたときの彼女の表情やセリフ、仕草に後悔が表れていました。

あとは終盤のリチャードが自分の憧れでもある法執行官に立ち向かった行動とセリフは胸が熱くなりました。とにかく見どころ満載な作品で131分の上映時間があっという間でした。
まだ語り足りない部分も沢山あるんですが、あまりにも語りすぎるとネタバレしてしまいそうなのでこの辺りで。
メディアの情報を鵜呑みにしてばかりではいけませんね。きっと逆の立場、本作における観衆側の立場であれば、私もリチャードを犯人と決めつけてしまっていたんだろうな。何にせよ証拠もないのに早とちりはダメですね。本作の教訓です!

やっぱサム・ロックウェルいいなー!
同時期公開の『ジョジョラビット』にも出演してますし、今年は彼の年になりますかね!本作では彼にイーストウッドの影を見ました!

※2020年劇場鑑賞8本目
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