ひこくろ

SKIN/スキンのひこくろのレビュー・感想・評価

SKIN/スキン(2019年製作の映画)
4.5
何かを敵だと妄信する人間の恐ろしさをまざまざと感じた。

全身にタトゥーを入れたレイシスト幹部のブライオンは、白人以外の人間に対して容赦なく暴力を振るう。
白人以外は敵だと信じている彼にとって、それは正義でしかないからだ。
しかし、彼は短編「SKIN」の主人公のような、根っからの悪人では決してない。
無礼な人間は白人でも許さないし、子供や動物に対してはとことんまでやさしい態度を見せる。
はちゃめちゃだけど、いい奴。
そんな人間が白人以外に対して、人が変わったかのように敵意をむき出しにしてしまうというのがまず恐ろしい。

ブライオンは恋をして、大切な人たちを守ろうとする過程で、徐々に自らの異常さに気づいていく。
けれど、彼の覚醒は組織に何の影響も与えない。
それどころか、彼は組織にとって邪魔な存在になっていってしまう。
白人以外は敵だと信じている人間たちにとっては、裏切り者も敵と同類にしか見えないからだ。

昨日まで家族と慕っていた人たちが、敵とみなした途端に自分に襲い掛かってくる。
敵意は留まるところを知らず、家族までもが標的にされていく。
この怖さったらない。
しかも、暴力を受けた側は、憎しみに駆られ、今度は復讐をはじめるのだ。
こうなると、その先には互いに憎しみあうだけの絶望しかない。

だからこそ、ブライオンに手を貸す反ヘイト団体の黒人ダリルは「怒りと憎しみの連鎖から抜け出すんだ」と語るのだ。
人は変われっこなんかないという短編に対して、こちらでは人は変わり得るという希望をしっかり描いている。
それはタトゥーを消すシーンのきつさからもわかるように、並大抵のことではない。
でも、不可能なことでは決してない。

人を敵として見るのではなく、人として見て付き合う。
それはできるのだ、という救いがラストには溢れていた。
よかった。
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