CureTochan

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのCureTochanのレビュー・感想・評価

3.5
余りまくっているU-NEXTのポイントを使って電車の中で再生し、帰宅して娘とテレビで続きを観た。人をエンタメしようと、あくまで善意で作られた作品を貶すのは、あまり良い気分ではない。先日の紅白歌合戦だって、いろいろ言われてるけど紅白なしに実現しなかった貴重なシーンはいくつもあった。ただ、この一年はポップス全体が不作すぎて、韓国人グループでも音楽的な盛り上がりに欠けた(ていうか、ソロのアイドルはおらんのか?)。もう大ヒット曲とスーパースターだけの懐古番組にしたほうがいいだろう。あと生演奏で。

このように、マンネリになったエンタメというのは厳しい目で見られがちだ。だから本作は広い心で観ようとしたのだが、セリフとか設定にはいいところもたくさんあるのに、あまりにも詰めが甘いスーパー赤字大作であった。キモチよくなりそうだったのに、イく寸前で止められたみたいなイライラ感ばかりが募る。何が善意だ。アホか。とにかくこんなに金をかけてこの仕上がりじゃ、映画を面白くする能力に根本的な欠陥があるとしか思えない。まず、あのバイクでのジャンプを宣伝で見せては駄目だろう。その20分前からバイク乗ってて先が読めるし、意味のない引き伸ばしはつまんないし、こっちが恥ずかしい。そのぐらいわかって作ってほしい。おねがい。バイクに乗るのは直前な。約束。

あとタイトルクレジットの直後、CIAの人間が、イーサンがどんなに優秀で恐るべき敵かをセリフで言う。でも近年のニーサンの行き当たりばったり感、たまたま助かるだけの間抜けぶりを見た我々には空虚に響く。一作目ミッション・インポッシブルの頃は優秀だった。ジェイソン・ボーンと同じように、優秀さは説明セリフじゃなくプロットと芝居で表現されていた。キャラクターが賢そうに見えるためには、映画が賢くないと駄目なのだ。たまたまカッコよくなるなんてことはない。

序盤のカーチェイスも、金とCO2排出枠がもったいない。冒頭から説明セリフばかりだったけれど、さらにまた登場人物が増えて、ついていけなくなったタイミングで始まるので、本筋が気になりながら見る羽目になる。KY男にアテンドされる女の気分だ。スパイなんだからたまには逃げ道ぐらい用意してほしい。目的や怒りのないカーチェイスとバトルシーンは空虚である。3つのパーティがいるのも、工夫がないからややこしいだけで、楽しくならない。あと黄色いシトロエンだが、あのメカはどういう仕組みで、なんの意味があるのか気になる。「二人組のCIA」に「ガブリエルと変な髪型の女」といったペアのキャラに意見の不一致があるのも気になる。とにかくなんかノイズが多い。そしてたどり着いた先、オチになるべき車からの脱出が意味不明すぎて、また客のほうが照れる。

前から言ってることだけど、もうトム・クルーズも白髪になるべき齢だ。年齢を重ね、昔ほどは走れないし、若造にもなめられるが、それでも負けないっていう設定のほうがシナリオも書きやすいぐらいだろう。しかしそっちに行けないのは、やはり役者としての限界なんだろうと今回も感じた。脇役にいい役者をキャスティングできないのも、クルーズが存在感で負けるから。これは演技プラス、たたずまいの問題だ。MIは、キャメロン・ディアスの独擅場だった「ナイト&デイ」になったら困るのだろう(あっちのほうがトム様のキャラも有能でカッコよかったが)。彼を「エクスペンダブルズ」に呼べないのも同じ理由だ。アクションにおいて大切な「怒り」の表現だけ見ても、スタローンたちはまだ優秀である。特に、本作のプロットであれば、中盤からリベンジパワーで突っ走るべきところだったのに、ほとんどテンションが変わらない。ブチ切れた人がクルマを走らせるほうが、YouTubeでも見られるベースジャンプなんかよりずっとスリルがあるのに。高さの恐怖もまったく描かれてないし。
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