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ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONEのシネマノのレビュー・感想・評価

3.9
『かつて映画(人)が夢見た景色への回帰。そしてそれを超えるべく仕上げた"ぶっ壊れた”大活劇映画』


2023年も、トム・クルーズが帰ってきた。
ここ日本でも、そして全世界で【トップガン マーヴェリック】(22)を特大のヒットに導いた”映画スター”が、またしても映画を熱くさせてくれた。


シリーズ第7作目となる【ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE】(23)は、題名にもある通り2部作構成の前編。
PART TWOを考えれば、まだ前半であると侮るなかれ。今作だけでも映画史上トップクラスのド派手な大活劇を楽しめる一作になっている。


・あらゆる映画人が進歩を目指して辿り着いた、現代の映画

・尺の利と毎話のクリフハンガーの連続で視聴者を惹きつけ、ピークに達したテレビシリーズ

・その両方で今日までに語り尽くされ、ハイコンテクスト化(または迷走)するドラマ

・ストリーミングサービスの隆盛、ネット社会、AIの台頭によって、ついに映画の居場所が霞みゆきそうな世界


そんな、夢を見せてくれる映画が夢のない現実を叩きつけられていてもなお…
トム・クルーズは物語のなかのイーサン・ハントと同じく、世界(映画)を救うために奔走する。


そして、その手法は剛腕である。


かつて映画にはロマンと、そして現実を超えた迫力=活劇があり、人々を魅了した。
トム・クルーズは、現代において映画やドラマシリーズの進歩を感じながら…
そのすべてを一度ぶっ壊し、UMAMIだけを凝縮し、
さらにポストモダンの観点で濾過し、
人々を魅了した景色(活劇)への回帰とで本作を仕上げた。


だからこそ、本作は最初から最後まで異様な迫力のアクションとコメディが、次から次へと垂れ流される。
そして、物語そのものは何が起きているのかも、まったくと言っていいほど進展もしない。


しかし、それでいいのだ。


場所、シチュエーション、装置を変え、まだまだ彼が魅せる活劇を見ていられる、と観客は期待しながらスクリーンに釘付けになる。
ワクワク、ドキドキ、ハラハラ、クスクス…
スクリーンに映し出されるキャラクターとともに冒険の旅へ。
そう、それがいいのだ。映画なのだ!
観ているうちに、そう自然と気付かされていた。


・61才のトム・クルーズが魅せるスタント無しアクション
 撮影初期にバイクジャンプやるなんて、あんたやっぱぶっ飛んでるよ…

・場所(ロケーション)を活かしたアクションシークエンス
 特にイタリア編は見事。アクション映画のお手本と言ってもいいほど

・【ローグ・ネイション】(15)がシリーズ1好きな自分にとってたまらない、イルサ・ファウストの活躍
 ベニスの橋でのシークエンス撮影がクランクインなんてスゴすぎて、そりゃ本人も忘れられないわ

・笑ってしまうような、荒唐無稽な2つの鍵というマクガフィン
 そこに、トムと志同じく映画を救うミッションに臨んだクリストファー・ノーランの【TENET テネット】(20)との共通項を見た

映画としても、見どころは溢れんばかりにあった。


自らが演じ、異常なスタントもこなし、プロデューサーとして映画をコントロールし、そして観客を熱狂させ、昔も今も(今のほうがスゴいというのが、本当にスゴい)作品を大ヒットへ導く。
そんな離れ業をやってのけるトム・クルーズのような役割を果たす映画人が、今後出てくるというのは考えにくく、そういった意味で”最後の映画スター”なのではないだろうか。


本作を観て興奮とともに、やはり少し切ない気持ちにもなった。
トム・クルーズが本編で魅せる前、ティモシー・シャラメがすでに傑作の匂い漂う【デューン 砂の惑星 PART2】(23)の予告で魅せるのも感慨深かった。
間違いなく、彼は若き日のトム・クルーズ並みのスター足り得るだろうが、そうはならない(選ばない)気もするから。


しかし、今はそんな哀愁を感じている場合ではない。
素直に、本作の興奮と余韻を抱きしめていれば良いのだろう。
トム・クルーズが映画から去る日も、人々の映画への熱狂がもっともっと冷めてしまう日も、「今日じゃない」のだから。


▼邦題:ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE
▼原題:Mission: Impossible – Dead Reckoning Part One
▼上映時間:163min
▼鑑賞方法:映画館鑑賞(IMAX)
▼鑑賞劇場:T・ジョイ PRINCE 品川
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