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シャイニング 北米公開版のドントのレビュー・感想・評価

シャイニング 北米公開版(1980年製作の映画)
3.7
 1980年。雪に埋もれて閉鎖する冬季のホテルの管理を任された作家と妻、超能力を持つ息子を襲う恐怖、狂気、幻視と亡霊の数々。世界公開版は120分で、こちらは140分強の北米公開版。
 120分版は3回くらい観たはずだけど、もしかするとこちらをちゃんと観るのははじめてかもしれない。本作、猛烈に怖いというわけではない。いや逆張りとか原作崇拝のつもりはないし、そりゃあ皆さんご存知の顔面とかすげぇ怖いんですけれども、わかりやすい恐怖ってんではなくこう、「厭」な映画なんです。シンメトリーの構図に人間がぽつんといる感じとか、息子や妻をぴったりと追いかけるステディカムとか、微妙なギスギスの高まりとか、あと音響と音楽。
 これらによって、綺麗なホテルなのにどこかしら人にまとわりついて覆い被さってくる雰囲気、そのうちグーッと精神を押し潰してしまう気がする圧迫感が、家族の冬籠りがはじまるあたりから本格的に付きまとう。ホテルの社長の「冬籠りはキツいよ」との言葉を越えた危うい匂いが漂い、人がいてはいけない場所なのだ、という空気が延々と発されている。元から怖いジャックニコルソンの顔ももっと怖くなってくる。
 で、ニコルソンが本格的におかしくなると、理由はわからないけれども何だか「わかって」しまう。これこそ映像や演出の力であり、時代を越えて人を惹きつける理由でもあるのだろう。なんかおかしい、どこか妙だ、ここはヤバいんじゃないか? そんな感覚を言葉で説明せず絵作りだけで見せているわけである。場面転換でディゾルブ(映像が半透明になってスーッと変わるやつ)を使うのはあまり好きじゃないが、この映画だと「ゆるゆる繋がっている不気味さ」「幽霊っぽさ」が表れていて、いいな、と思う。
 一方でスレた今観ると、たとえばまだ狂ってない会話や電話のシーンにおける極めて単調な切り返しにはムッとさせられる。シンプルに退屈である。しかしコトが起きはじめてからは狙ってか狙わずか、演出パワーがブンブン唸っていて文句のつけようがない。正邪を問わずシンメトリーを崩していくのと平行して破壊と暴力が噴出していくあたり、やっぱスゲェなぁ、と思うのであった。結論としては、やっぱスゲェ。全編にではないが、映画の魔が宿っている。ただあの「凍り方」は何回観ても慣れない。コントの凍り方ですよあれは!!
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