物語はホメロス『オデュッセイア』をベースに、不貞の妻の待つ"家"に帰ろうとする男を描いているが、上記の通り一つの家屋の中で完結している。そして、美術館のように、一つ一つの部屋に記憶と過去をチャプター分けすることで、完全屋内型のユリシーズ的放浪が完成している。そこに記憶喪失や捻れた家族関係(ハートリーはユリシーズの息子マナーズを殺してユリシーズの養子となって、義妹イオタと関係を持つが、家の中ではマナーズは死んでおらず、誰一人として認識できていない)が加わり、いつものガイ・マディン的世界に染まっている。これまで『Cowards Bend the Knee』における父親としての仕事放棄、『Brand Upon the Brain!』における子供たちの抑圧と"家"への束縛など、似たテーマをここでも扱っている。とはいえ、デジタルで撮ったような明らかに輪郭のはっきりし過ぎた映像も混じっているので(そしてそれを頑張ってボケた輪郭にしようともしているので)、ちょっと複雑な気分にはなる。