ひこくろ

ブリング・ミー・ホーム 尋ね人のひこくろのレビュー・感想・評価

4.4
どうしようもないやりきれなさが心に残って離れない。

人はこんなにも残忍になれるのか。
世の中はこんなにも悪意に満ち満ちているのか。
出てくる人の大半は、人でなしとでも言いたくなるような人間ばかりだ。

行方不明の息子を探す親に偽情報を流して喜ぶ愉快犯。
子供をまるで奴隷にように扱い、こき使う大人たち。
抵抗できない子供たちに性的虐待を加える変質者。
彼らにジョンヨン夫妻と子供たちは翻弄されていく。
その様子は正視に堪えないほどに残酷で、人間の醜さをこれでもかと突きつけられる。

ジョンヨンはやっと得た情報を頼りに、田舎の釣り場を訪れる。
しかし、釣り場の人間たちは彼女の息子と思われるユンスを隠し、知らないふりを貫く。
確かにそこに誰かがいる、という痕跡を見つけても、警察の上層部まで巻き込んで、彼らは隠蔽をはかる。
表むきはこれみよがしに親切な態度を見せる、その裏表のある彼らの姿は、醜いを通り越して、もはや恐ろしい。

「それでも人間なの?」というジョンヨンの言葉がすべてを表していると感じた。
それと同時に汚職警察官が最後に放つ「俺たちだけが悪いんじゃない。誰もかもが無関心だったじゃないか」という言葉が響く。
描かれる悪意は氷山の一角に過ぎず、その奥には見えない悪意が蠢いている。
とことんまで絶望させられる気持ちになる。

釣り場の面々はそれ相応の報いを受けることになるが、それはなんの救いにもならない。
最後の最後で、ほんのわずかな救いがあるのだけが、わずかにホッとできるところだろう。
でも、冷静に考えれば、その救いの裏にもいくつもの絶望が潜んでいる。
そう思うと、やっぱりどこまでもやりきれない映画だと思った。
ひこくろ

ひこくろ