ひこくろ

ベル・エポックでもう一度のひこくろのレビュー・感想・評価

ベル・エポックでもう一度(2019年製作の映画)
4.4
あまりの脚本の素晴らしさに思わず唸ってしまった。

疑似的にタイム・トラベルを体験できるサービスを、老人の主人公ヴィクトルが受けるのがメインの話。
が、同時に、そのサービスを提供する裏方たちの物語も進行していく。
ヴィクトルにとっては過去の再体験となるが、裏方にとっては「どう完璧に見せるか」の芝居の本番になる。
役者に翻弄されるは、アクシデントが起こって事態の収拾に追われるは、で、このドタバタぶりが、作品を作る側の話になっててとても楽しい。
さらに、偏屈で批評家タイプのヴィクトルの行動が事態を混乱させていく。
過去のなかで「お前は役者か?」と尋ねたり、「本当の過去はこうだった」と文句を付けたりするのだから、始末に負えない。

それでも必死に過去を再現していくスタッフと、徐々に過去に惹かれていくヴィクトル。
物語としては上々。
ところが、これで、話は終わらない。
ヴィクトルは運命の女性を演じたマルゴに恋をし、マルゴは恋愛関係にある演出家に、ヴィクトルとの会話を通して愛のメッセージを伝えようとする。
事態はどんどんと複雑になっていく。
それでも、観ていて混乱することはない。
ここら辺のバランスのよさも脚本の上手さだろう。

仕掛けだけでなく、些細な部分も非常に凝っている。
全編、毒っ気たっぷりのエスプリに満ち満ちていて、各シーンのやり取りや描写も楽しい。
なかでも、妻が夫を追い払うシーンの毒っぷりはすさまじく、思わず吹き出してしまいそうになった。
そのうえ、このシーンの意味は、これだけでは終わらないんだから、すごい。

クライマックスでは盛り上がりとしても愛らしさとしても最高潮を迎える。
ほんの少しだけ毒を混ぜたラストシーンも最高。
知的で、洒落ていて、おかしくて、楽しい、じつに大人な映画だった。
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