ひこくろ

ルクス・エテルナ 永遠の光のひこくろのレビュー・感想・評価

4.6
いったい僕は何を観たんだろう。その思いしか湧かない。

映画撮影の内幕もののように作品ははじまる。
女優のシャルロット・ゲンズブールと監督を務めるベアトリス・ダルは、撮影される火炙りについてとりとめのない会話を交わしている。
とりたてて撮影に必要な会話ではない。でも、まあ撮影の現場ではこういうことも普通にあるだろう、とは思わされる。
ただ、その撮り方がすでにもうおかしい。

画面は左右ふたつに分かれ、シャルロットとベアトリスそれぞれが映されているのだ。
とはいえ、二人の会話だから、この時点ではまだ感じる異常さもそんなに多くない。
ちょっと変わった撮り方だな、と思う程度で済む。

それが撮影がはじまろうとすると徐々に変わってくる。
二つの画面は別々の場面を映し出し、会話ややり取りも別々のものが同時に映る。
もちろん、字幕も二つ同時に出る。
状況を追っていくだけで、頭のなかが精一杯になっていく。

なんとなくわかってくるのは、そこが最悪に近い現場だということだ。
監督のベアトリスと撮影監督のマックスは対立し、それぞれ自分のやりたいことをやろうとしている。
スタッフは友だちや家族など、部外者を勝手に呼び、現場内で自由にさせている。
英語とフランス語がまざって飛び交い、言葉のわからない役者は途方に暮れている。
エキストラはなかなか現場に集合してこない。
何もかもが上手くいっていない。

これは映画を撮る話ではなかったのか。
考えれば考えるほどどんどんわからなくなってくる。
全員がたぶん本名で出ている、ということはドキュメンタリーなのか。
なら、監督のギャスパー・ノエの立ち位置はどこになるのか。

意味のわからなさがぐっと高まったところで、今度は撮影シーン。
ここで意味不明の度合いは頂点に達する。
予告編も出てるのでネタバレにはならないだろうと思って書いてしまうが、終盤は画面がチカチカしたまま、苦しみ悶えるシャルロットの姿が延々と映されるのだ。
もう、まったくわからない。

わからないんだけど、ものすごい緊張感と、ある種の狂気だけはこれ以上ないくらいに伝わってくる。
ギャスパー・ノエは初めて「カルネ」を観た時に衝撃を受け、「アレックス」で彼の狂気が映画の形になったと思った。
それで理解したつもりになっていた自分をいまは恥じる。
この映画の狂気はその比ではない。

わずか52分の映画なのに、体感はタイトル通り「永遠」に近い。
そして内容がまるで理解できないのに、何かを確かに受け取った気分になる。
賛否両論というより、おそらく否の意見が大多数だろう。
映画として成り立っていないという批判さえ出てくるかもしれない。

でも、圧倒的な力を持った映画だと僕は思った。
生涯忘れることのないだろう一本になった。
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