ChihiroShiroma

ローリング・サンダー・レヴュー マーティン・スコセッシが描くボブ・ディラン伝説のChihiroShiromaのレビュー・感想・評価

5.0
 70年代、混乱の真っ只中のアメリカを東西に縫うように、小さな町の集会場やらコンサートホールにふらっと現れ、音楽史に名を残す名演を繰り広げたディラン伝説の57日間の記録映像を、名匠スコセッシが編集した奇跡のようなドキュメンタリー。スターの座にふさわしい大がかりなツアーには見向きもせず、まるでフェリーニの映画に出てくるサーカスの一座の団長気分のディラン。その人を食ったようなユーモアのセンスを十二分に理解している監督だからこそ、事実と虚構が入り混じった(上院議員として登場する人物、ぜひ名前を調べてみてください)、おとぎ話のような仕立てになっている。
 出発前のグリニッジビレッジで完全にトンでいるパティ・スミス姉さん、「こんな新曲があるんだけどどうかな」と、何気なく名曲コヨーテを誕生させるジョニ・ミッチェル、現実のものと思えない美貌と、それがかすむほどの才能を遺憾なく発揮するジョーン・バエズ(との別れを明らかに引きずっている未練がましいディランも必見)、あちらにサムシェパード、こちらにロジャー・マッギンと、豪華すぎるツアーメンバー。公演後に嬉しそうに楽屋にあいさつに来るブレイクしたてのブルース・スプリングスティーンにグルーピー!?枠のシャロンストーン、1回見ただけでは追いつかないほど、綺羅星のごとく登場するスターたち。
 でも最も印象に残るのはやはり、ツアーの重要なテーマでもあった、無実の罪で投獄されたボクサー、ルービン・カーターの釈放を訴えて『ハリケーン』を歌うディランご本人の鬼気迫るド迫力のパフォーマンス。数えきれない人の人生を変え、恐らく世の流れも幾度となく変えてきた生きる伝説が、恐らくもっともオープンでミステリアスだった時期を振り返る、貴重すぎる映像。なのに「よく覚えてない」としらを切る、相変わらず天の邪鬼な現在のロバート・ジマーマンさんなのでした。
♬Hey, Mr. Tambourine Man, play a song for me
In the jingle jangle mornin' I'll come followin' you...♬
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