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Winnyのkitoのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
3.7
観終わって、ああ、こういう顛末だったんだぁ、と今更ながら腑に落ちた。

本作は「ファイル共有ソフト「Winny」に絡む著作権法違反(公衆送信権の侵害)を問われたものの、無罪となった刑事事件」(Wikipedia)を描いた実話で、多少ともパソコンに関心、興味がないと非常にとっつきにくいと思う。

時は世紀の変わり目、光回線もスマホもまだなかったネット・デジタル黎明期、2001年に端を発する「Winny事件」はもはや歴史の1ページだろう。当時のネットの世界は、ネットの危険性を認知しているといった程度の現在のデジタルリテラシーでは計れない、なかなかに魑魅魍魎だった。

私は1995年以来Apple信者なので、Windows専用のWinnyは触ったことすらない。ただ、Winnyと同種の米国のソフトウェアNapsterを使ったことがあり、出来ることやそれに伴う著作権問題も一応、理解していた。Napsterが1999年アメリカ・レコード協会傘下のメジャー・レーベルから訴えられ、2003年にAppleが「iTunes Store」を開設するに至った一連の経緯もリアルタイムで見てきた。

本作の主役金子勇は業界内では天才プログラマーと言われていたそうだが、当時、私も含めてニュースでしか知らない一般市民には、揉め事を起こした "怪しげな困ったちゃん" くらいにしか思われていなかったんじゃないか。

前段で弁護士たちがナイフを例にこの事件の本質を話していたが、なるほどねと長年のモヤモヤが晴れた気がする。

東出昌大が少し風変わりなこの天才プログラマーを上手く演じている。例のスキャンダルも相まって、なんだコイツのキャラは⁈と前半は観ていて少しイラッとするくらいだった。

ところが中盤以降、事件の詳細がわかるにつれ、嫌な感じが減ってきた(まあ、両人ともリアルに変わり者なのだろうけど) 最終的には43歳という早逝を惜しむくらいに思えてきた。

Winnyが接点となった愛媛県警の裏金事件も描かれる。吉岡秀隆が演じ、サブストーリーとしては重過ぎて少し気が散るレベルだけど、これも紛れもない事実。

本作は同じ実話ものでも「グランツーリスモ」のようなワクワクするエンタメとは正直言い難い。しかし、後世に残すべき教訓がちゃんと描かれていて、リアルタイムで経験した身としては懐かしく観終わり満足感も得られた。
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