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Winnyのohassyのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
4.0
今では結構当たり前のPCやスマホなど端末同士でファイルを共有するやりとりは、2000年頃まで少なくとも僕の周りには存在しなかった。
何かの大きなデータを共有するには、CD-ROMに焼き付けてそれを手渡しする必要があった。
Winnyが登場するまでは。

余談ですが、あまり触れられていないけれど前身のWinMXというファイル共有ソフトがあって、その進化版ということでMがnに、Xがyに進んで、Winnyという名前になった、という経緯で名付けられたはず。
ただ、技術的なことはよくわからないけれど、 MXを遥かに凌ぐ性能と匿名性で多くのユーザーを獲得し、ファイル交換という文化を急速に育てていったことは間違いない。
本当に画期的な発想のプログラムだったのだろう。

でも、本作を楽しむ上で実際の事件やプログラムの知識は全く必要ない。
自分たちの正しさを信じて強大な権力と戦う姿に、強く心を打たれる物語だ。
とにかく東出昌大がすばらしい。
言い方は難しいけれど、一連の騒動を経たことで役者としての厚みが結果的に増してしまったようだ。
「スパイの妻」でもその片鱗は感じたけれど、どうやら本物みたい。

本作で描かれるのはあくまで被告側の視点で、100%肩入れするのは危険ではある。
引き合いに出される例え話として「包丁で殺人が行われたとして、包丁を作った人は罪に問われるのか?」というのがあるけれど、包丁は調理をするために作られたものであり人を殺すために作られたものではないことに対して、Winnyはファイルを共有するために作られたソフトであることは事実で、例えとしては少しずれているようにも思う。
とはいえ「著作権法違反幇助」での逮捕も、強引すぎる気がするのも事実で、世の中も法律も、この技術に全く追い付けていなかったということだろう。

それよりも本作の核であり心が震えるのは、ひとりの優秀すぎる技術者が、ついて行けずに後塵を拝した権力の都合で潰されて、時間を奪われて、命を縮められてしまったことに対する強烈なアンチテーゼだ。
特に日本では、組織が持て余す能力は時として迷惑で罪なことだと理解される嫌いがある。
もし彼がアメリカでこの技術を披露していたとしたら、きっとIBMやAT&T、それこそMicrosoftあたりは放っておかなかっただろう。
出る杭は、取り込むことで自分たちを守りつつ大きな利益に転換する。
文化の違いは大きい、自戒の念をこめてそう思う。

純粋な技術者としての佇まいが愛おしい東出昌大の演技や、リアルで緊迫感があり痛快な法廷シーン、悪役としてちゃんと憎たらしい渡辺いっけい。
とってもすばらしい社会派エンタメ映画です。
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