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アニエスによるヴァルダのらんらんのレビュー・感想・評価

アニエスによるヴァルダ(2019年製作の映画)
5.0
アニエス・ヴァルダによる、自身についてのドキュメンタリー。

映画を作る際には「ひらめきと創造と共有」をキーワードにしているという。

初期の写真から映画、後期のインスタレーションまで、生き生きとした言葉で自身の作品について語る。明晰だけど同時にとても感覚的だ。
心の奥底の泉をこれだけ多様に表せる人として、「ヌーヴェル・ヴァーグの祖母」と呼ばれるのも納得が行く。

彼女の関心は常に世界に開かれている。

俳優や映画人の肖像、フェリーニ、ダリ、ヴィスコンティ、そしてジャック・ドゥミ(夫ドゥミの写真は胸に抱えてみせる)。
エーメ、ドヌーヴ、モロー、他にも沢山。

そんな有名どころの写真の後に、沢山の市井の人達。子供達。
写真家から始まった彼女の旅路、「無名の人、彼らこそが“本物の人々”、私が撮るのは彼らよ」
厳かな自然や躍動する街の景色を人生のある瞬間に共有する人々、そんな写真にとても惹きつけられた。
インスタレーションの三連映像は最近観た『VORTEX』ではないか!引用というより着想、アニエスによる古典からの着想が受け継がれ、生まれ変わりリサイクルされる。
「リサイクルは楽しい」

自身に焦点を当てない彼女は、出身地のベルギーを訪れた際も、結局隣人の鉄道マニアを撮影して満足したようで、自分の出生地や家は後回しになってしまう。

とは言え自身の身の回りに関係する作品もある。

『ダゲール街の人々』(1975)では家族で長く暮らした通りを撮り、本作の製作を手掛けた娘のロザリー・ヴァルダ(映画衣装デザイナー)もワンシーンで出演している。
『ジャック・ドゥミの少年期』(1991)は夫ドゥミのノートから出来た作品、そして自身の人生を振り返った『アニエスの浜辺』(2008)。
フィクションだが、『カンフー・マスター!』(1987)ではジェーン・バーキンと共に息子のマチュー・ドゥミ(当時14歳:俳優)が出演している。

そう言えば冒頭に出て来る短編『ヤンコおじさん』(1967,22分)も、会ったことのない親戚だった。彼と会えた喜びと感激を共有したいとカメラを回したとのこと。

ドキュメンタリーについての発言も興味深い。

「ドキュメンタリーを撮るなら、最初に自分の見解を持つべき。その見解を基に撮る」
「ドキュメンタリーには二つのタイプがある。まず純粋にリアリティを求めるもの。一方、私のように準備して撮るドキュメンタリーもある。手を加えて現実らしく撮るのが好き。常に演出しているとは言わないけど、リアルに見せるための策よ」
「現実と描写を近づけるのが好き」

アニエスの言う「見解」や「描写」が思考と対極にあるのは明白だ。理知的でフェミニストである彼女だけれど、思考を除去するようなワイズマンや日本では想田和弘の方法とそう遠いとは思えない。共感と共有、そして正直だ。

楽しい、楽しい、愛着と慈しみ。幸福とは。

“壁”に相反するのは浜辺。「そして、具体性を帯びる砂の存在」
具体から俯瞰、俯瞰から具体、世界の粒になるまで。
アニエス・ヴァルダ1928-2019。
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