少し前から気になっていた中国ノワール。
出所したばかりのチョウ(フー・ゴー)は古巣のバイク窃盗団内部でのシマ争いの小競り合いの最中、誤って警察官を射殺してしまう。懸賞金をかけられ全国指名手配されたチョウは、せめて懸賞金を妻子に残そうと妻のシュージュン(レジーナ・ワン)を呼び出すが彼女は現れない。そんな彼の前に妻の代理だと名乗る娼婦のアイアイ(グイ・ルンメイ)が現れ、2人はお互いを疑いながら行動を共にする。
ストーリーはなんてことないドン底の男のどん詰まりノワールなんだけど、画面がとにかくお洒落で、アジアらしいジメっとした演出が独特な雰囲気を醸していてかなりよかった。
1人の男がとにかく堕ちていくだけのストーリーなのに、ファムファタール的なグイ・ルンメイの謎めいて怪しげで、影のある美しい空気感が作品を引っ張る。
主役のフー・ゴーも悲しげな表情が印象的なで阿部寛とスカパラの谷中敦を足して少しマイルドにしたようなナイスガイ。何を考えているのかわかりにくいキャラクターではあるけど、絶望的な人生でもせめて家族にお金を残そうとする姿と、それでもアイアイに次第に心惹かれていく狭間のような絶妙な雰囲気が上手い。
開発から取り残されて犯罪が蔓延る寂れたリゾート地となった鵞鳥湖の吹き溜まり感と、チョウとアイアイの行く末に絶望しか見えないドン詰まり感が見事にリンクしている。刹那的で退廃的なネオンの明かりもたまらない。
チョウに懸けられた賞金や私怨を巡って入り乱れるヤクザと、威信をかけてチョウを追う警察。淡々と進むストーリー。しかし確実に追い詰められていくチョウ。
和気藹々としたチンピラ会合からの突然の発砲。
トンネルからの突然の首チョンパ。
ビニール傘に飛び散る鮮血。
ほとんど劇伴もなく静かに進む作品なのに時折挟まれるバイオレンスがかなり印象的。
ボートの上で2人が身を重ねるシーンが生々しい。思えばここで最後の行為にまで至らなかったのはアイアイの最後の決断と繋がってるんだろうか。
"お兄さん、火を貸して"
繰り返される印象的なセリフ。アイアイにとっては結局そこまでの関係だったのかも。もしかしたらアイアイが同情したのはチョウの方じゃなかったのかもしれないな。そう思わせるラストシーンには少しだけ希望が見えてよかった。