すずき

鵞鳥湖の夜のすずきのレビュー・感想・評価

鵞鳥湖の夜(2019年製作の映画)
3.6
80〜90年代のままの雰囲気を残す、中国南部の避暑地・鵞鳥湖。
窃盗団の一員であるチョウは、別の地区のチームとトラブルになり、命を狙われる。
逃走中に誤って警官を射殺した為に、30万元の懸賞金の指名手配犯となってしまう。
彼は5年も連絡を取っていなかった妻に会いたいと願い、ホア兄貴に連絡を頼む。
だが、待ち合わせ場所に来たのは妻でもホアでもなく、アイアイと名乗る娼婦だった。
チョウはアイアイから事情を聞き、追手を巻きながら彼女と行動を共にするが…

「薄氷の殺人」のディアオ・イーナン監督の中華フィルムノワール。
グロくはないんだけど、唐突かつ自然にバイオレンスシーンに繋がる、冷めた暴力の撮り方は前作同様。
台詞での説明は最低限で、ストーリーを追いかける事よりも、雰囲気を楽しむタイプの映画。

前作は冬の地方都市が舞台だったが、本作の舞台はじっとりとした暑さ漂う夏の地方都市、鵞鳥湖。
道路は未舗装の場所が残り、汚い雑居ビルで汚い飯を食い、半裸のオッサンが麻雀を打っている。
そんなレトロな情景をそのまま残す、鵞鳥湖のロケーションがまず素晴らしく、この街自体が主人公のように思えた。

本作のファム・ファタール、アイアイのキャラクター&キャスティングも絶妙。
避暑地の湖で身体を売る、「水浴嬢」という職業。
娼婦という職から連想する姿からは、あまり想像出来ないベリーショートの、素っ気ない風貌。
美人ではあるがキラキラしていない、しかし何処となく品があるような、中心からズレたような不完全さに心惹かれた。