ドント

フェアウェルのドントのレビュー・感想・評価

フェアウェル(2019年製作の映画)
3.9
 2019年。よかった。中国生まれアメリカ育ちの30歳ビリーとその両親は、祖母がガンで余命いくばくもないと知り、親類の結婚式にかこつけて生まれ故郷へ。ガンのことを隠しつつ、まだ元気な祖母を囲んでの家族親類のふれあいと軋轢と揉め事を描くドラマ映画。タイトルは「告別」の意。
 結婚式とお葬式(本人には隠してある生前葬みたいなもの)の映画である。墓参りもある。湿っぽくなく、ドライでもなく、温かくもあり冷たくもあり、悲しくて滑稽な人間模様の物語である。正確には人間がそれらの合間を行き来する。要するに、人生の映画と言える。
 ガンで数ヵ月の命と言われているおばあちゃんだがまるでそんな様子はなく、結婚式の取り仕切りに忙しい。「料理はロブスターって注文したのになんでカニなの!?」と式場に怒り、「あんな嫁じゃ先が思いやられるわ……」と愚痴り、亡夫の墓参りでは延々と仏様に一礼二礼三礼を繰り返す。
「食べなさい食べなさい食べなさい」「あんたまだ結婚しないの?」「このお医者さん独身なんですって……ねぇ?」と押し売りしてきたりする。一目会うために帰ってきたのに、おばあちゃんというよりは「このババア……」と言いたくなる瞬間もある。中国の親類と渡米組が揉めたりする。そもそも祖母に告知するか否かで揉める。
 これが「アメリカ人」の映画ならば何らかの決心があり、それが家族の結束や主人公の成長を促すものとなるだろう。しかしこれは中国を舞台にしている。アジア的な映画である。だから私たちはそのようなことにならないことを知っている。「東洋と西洋は考え方が違うんだよ」というセリフはある。しかしどちらかが決断的に選ばれることはないし、劇的な展開もない。ぬるま湯、なあなあ、場の空気。
 このぬるま湯、なあなあ、場の空気、な価値観を、肯定するでも否定するでもなく、よい側面も悪い(ウザい)側面もそのままに、「そのようにしてある」ものとして撮っている。このあたりが日本人にはしっくりくる。そりゃまぁこういうのがイヤな人もいるだろうけど、少なくとも「わ、わかるゥ~」となるのだ。このへんのバランス感覚がとてもよい。
 万物流転、諸行無常な感覚をぼんやりと取り込んでいき、「そういうものもある」感を抱えてニューヨークの街の中を立つようになる主人公ビリー=オークワフィナの演技もよろしく、色合いもよく、オチも含めて大変よろしい映画でした。末筆ながら今日でサービス終了する配信サイトGYAOへの「告別」として観たんですけど、このオチ。ニコニコしてしまったですよ。またいつか会おう!
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