せーじ

82年生まれ、キム・ジヨンのせーじのレビュー・感想・評価

82年生まれ、キム・ジヨン(2019年製作の映画)
4.4
329本目。
観よう観ようと思っていながらも観れなかった作品をようやく鑑賞。



…はぁ…つら。
…内容はしんどかったですけど、観て良かったと思います。

■「他人のことをとやかく言う奴がいちばんヤバいんよ」という件
最近自分はよく、YouTubeで5ちゃんねるのまとめ動画を観る機会が増えたのですけど「結婚してからトラブルに巻き込まれて離婚に至るまでのスレ主による闘いの記録」という内容の動画がとても人気なんですよね。この手のコンテンツが人気なのは、かつて放送されていたフジテレビの番組『ジョーダンじゃない!?』が人気だったのと同じで、手軽に他人のエピソードでスカッと出来たりイラッと出来るからだと思うのですが、そういった動画に悪役として登場する旦那や姑、義実家の人々が、明らかに「旧い考え方」を持ってる人たちばかりなのです。(今は昭和じゃないですよ、21世紀だし令和なんですけど…)と思うのですけど、行き過ぎた家族至上主義や孫至上主義に囚われすぎて、下の立場に追いやることが出来る人たち(主に女性)を虐げたりしている人があまりに多くて、なんなんだろうなと思ってしまいます。
なので、本作を観ていても「これは韓国特有の問題であるだろうから、我々には関係ない」とは到底思えませんでした。むしろ「これは…自分たちも他人のことは言えないだろ…」という「嫌な意味での共感」が為されてしまうことばかりが起きる展開で、観ていて非常に居心地が悪かったです。
特に主人公の旦那さん…、アイツはいいやつじゃないですよね?いや、表面的にはいいやつなんだろうけど、言動の端々から漂ってくる「"正しい"という正しくなさ」感が凄まじくて自分は悶絶してしまいました。その上それは「自分も同じようなことをしでかしてしまいそう」な、ある意味での共感も同時に感じられてしまう言動だったりもしていて、何も言えなくなってしまいます。「言葉」と「意識」と「行動」が伴うかどうかの違いですよね。自分の様な「頭で理解していていることを自負している」という人間ほど、観ると鈍器で殴り倒されるような感覚になるのではないかなと思います。「おめーの様な奴らがいちばんヤバいんだよ!(ボカッ)」って。

■届かない「言葉」とわかり得ない「仕組み」
本作を観て個人的に最も印象的だなと思ったのは、主人公の「憑依」によって発せられた言葉を、誰も聞こうとはしていないことでした。
あれはおそらく、解離性同一性障害に近いものだと思うのですけれども、その場に居合わせた人々は、誰もが主人公が「そうなってしまった」ことそのものについて嘆き悲しむだけで、原因だったり言葉の意味だったりを考えようとはしないのですよね。つまりそう描くことで「主人公の苦しみや悲しみや訴えは、本当の意味で周囲の人間には届いていない」と描こうとしているのだと思うのです。もちろん、病院にかかるというのは大前提な対策であることは間違いないでしょうが「病院にかかればいい」で終わらせてしまうというのもまた違いますよね。そういった「問題解決への歩み寄りの難しさ」が、映画的な演出としてもストーリーの内容としてもシンクロするように描かれていて、感嘆してしまいました。
そしてやはり思うのが「仕組みを知ることの大切さ」でしたね。この映画自体が、主人公が主人公としてここまで生きてきたのだという「仕組み」を率直に伝えようとしていて、だからこそ「何がどう問題なのか」が劇中であぶり出されていく構造になっているのですが、それがとても秀逸に描かれていたと思います。
誰かや何かだけを断罪して終わりにしない描き方が素晴らしかったです。

■「向き合えれば、半分は解決している」
原作は未読なのですが、聞くところによると、ラストは原作とはまったく違った内容で、賛否両論があるそうですね。どういった展開がこの物語にとって最も良いのかは自分には判断がし難いですが、個人的にはこういうポジティブな結末として作り上げた方が、より作品としての作家性や伝えたいことが強く伝わるのではないかなと思いました。
それは終盤、精神科医の先生が「来院することが一番のハードルであり、来院をした時点で問題の半分は解決している」と主人公に伝えようとするのと同じで、「この映画を観ることそのものがこの映画で描かれている問題を解決に向かわせる糸口に繋がっているのだ」とこの作品は伝えようとしているのだと思うのですよね。まぁ、半分解決しているというのは問題そのものから重さから逆算すると甘すぎる見立てなのかもしれないですけど、おそらくこの問題を解決させるには、「知ること」(つまりこの作品に触れること)が、最も重要で最も難しいことであるというのは、間違いないことだと思うのです。未だにネット上では「女性ばかりが可哀想なんじゃないやい!見向きもされない男性の方がよっぽど可哀想じゃないか」とかいう幼稚な考えが蔓延しちゃってますからね。。。(そういうことじゃねぇよという話であるはずなのですが)そういう意味では、キチンとした希望を映画のラストに置くというのは、こういう映画の結びとしてとてもアリだと思います。ラストシーンの場面は、ここから先の私たちが目標にしないといけないこと、だと思うので。

※※

ということで、正直な所自分のキャパシティが映画に追いつけない作品だったのかなと思いました。まだまだ修行が足りませんね。
YouTube動画ばかり観ていないで、教養と見識を深めていきたいと思います。
男女問わずおすすめです、ぜひぜひ。
せーじ

せーじ