ちゅう

フリーソロのちゅうのレビュー・感想・評価

フリーソロ(2018年製作の映画)
4.5
命を賭している者はどうしてこんなにかっこいいのだろうか。
かっこよさというのは元来、狂気にまみれたものなのかもしれない。


絶対に登れなさそうな難所だらけのロッククライミングの聖地エル・キャピタン。
断崖絶壁の岩山の約975mのコースをロープ無しのフリークライミングで登るアレックス・オノルドのドキュメント。


"フリーソロに命を賭ける者はみんな死んでいるよな"
フリークライマーは遅かれ早かれ事故で死んでいる。
たった一つの小さなミスで死んでしまうからだ。


アレックスにとっては大きな達成を得ることが生きる目標で、長く生きること幸福に生きることには興味がない。

けれど周りにいる家族や恋人はそうではない。
生き方を否定したくない、悔いなくやらせてあげたいと口ではいうものの心境は複雑だ。
挑戦が常に死と隣り合わせの極端な生き方を許容するのは難しい。

そんな彼から離れていかないのは彼に強烈な魅力があるからだろう。
確固とした信念とそこからくる不思議に説得力のある言葉。
彼の魅力的な佇まいはカメラのレンズを通しても伝わってくる。


クライマックスである実際にエル・キャピタンに登るシーンは圧巻だった。
いつ滑落してもおかしくないようなほとんど凹凸のない壁を登っていく。
失敗しないとわかっていてもヒヤヒヤしてしまう緊張感。
実際に現場で見ていたら生きた心地がしないだろう。
撮影しているカメラマンも二度とこんな撮影はごめんだと言っている。

彼が登攀(とうはん)した時の緊張からの解放は素晴らしかった。
バカげているけれどすごい。
バカげているからこそすごい。
バカげているというまともな論理を超えたところにあるもの。
それは人知を超えた巨大なもので、そういうものに我々(特に日本人)は神を見る。
なんとも言えない感動があった。

成功した後、恋人に連絡した時のアレックスの晴れやかな表情と恋人の安堵の言葉には心がじーんとして涙ぐんでしまった。


"いつ死ぬかわからないのは皆同じだ"
"登ることで"生"を実感しているんだ"

あなたは何に"生"を実感するだろうか。

彼の実存がこだましている。
ちゅう

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