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山懐に抱かれてのodyssのレビュー・感想・評価

山懐に抱かれて(2019年製作の映画)
3.0
【イデオロギーとしての酪農】

ドキュメンタリー。
岩手県の山間部で山地酪農という方法で牛を放牧している農家を、長年にわたり地元のNHKが取材して映画化したもの。

山地酪農とは、山間部の森林を草地に変えて、そこで牛を一年中放牧しておくという方法。一年中だから、厳寒の冬期も、乳搾りで牛舎に一時的に入れるとき以外は夜間も含めて放牧しっぱなし。牛さん、寒いでしょうにね。

そもそもこの方法は日本の農学者が提唱したもので、千葉県出身で東京の農大に学んだ青年がこれを実践に移した結果なのだ。決して田舎の農家が体験的に生み出した酪農法ではなく、むしろ都会人の理論と実践の末、ということなのである。

見ていて、経済的にどうなのかなど、いくつか疑問が湧いてくるのだが、この映画は必ずしもそれに答えてくれるわけではない。

良くも悪くもイデオロギーとしての酪農なのである。地方が舞台ではあるが、田舎の純朴さを期待してはいけない。かつては農大出たての青年、現在は孫もいる初老の酪農家は、或る意味、家父長的な性格をも強く有している。繰り返すけど、良くも悪くも、である。
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