みーやん

オオカミの家のみーやんのレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
3.9
アニメーション(ストップモーションアニメ含む)で表現自体に独自性があるものっていうのはけっこう関心があって劇場に足を運ぶクチです。とはいえ鑑賞した本数からいくといわゆるアニメファンではないと思っています。ひじょうに評判になっている本作ですが、都会から遅れること1ヶ月地元での心待ちにしていた上映ということでイソイソと観に行ってきました。
描かれているものが事前に感じていた印象ほど直接的にグロテスクなわけではなかったですが、内容・切り口・アニメとしての語り方が見事に噛み合ってなんというか俗な言い方ですけど悪夢的というか、「的」というより夢が不条理さとか意味不明さも含めてちゃんとかたちになっているというか、ここまでのものを実現した監督二人の執念?狂気?に脱帽するしかありませんでした。

スパイダーバースや公開中のタートルズなどのCG込みでのアニメやスタジオライカの一連の作品などといったアニメ表現の最新地点を更新していきつつ基本はジャンルものというかエンタメ性を保ちつつ、という流れがあるのに対して本作は完全にアート作品ですよね。聞きかじり情報ですが世界各地をまわって製作過程じたいをパフォーマンス/インスタレーションとして公開しながら撮ったそうで、そういった視野の広さというか違いも含めてアートだなと。なので一定数のついていけない人・理解してもらえない層があるというのも折込済みなんだと思います。

個人的に直接的なグロ描写やショック演出が苦手なのですが、先に書いたように予告で煽るほどにはそのへんが強烈ではなかったので、かなり面白く鑑賞しました。ただ自分でもびっくりするぐらいだったのですがとにかく「脳が疲れる」という印象の映画でしたね。たとえばあるシーンでの一人の人物をカットを切り替えながら描くとして、引きのショットと寄りのショットでつど造形がぐねぐねするすると生成されたり、かと思うと壁にバンとアップの顔が描かれてそれがストップモーションの手法でコマごとに書き換えられて動き出したりといった目まぐるしさだったりするわけです。ここでの人物のように主眼として見せたい・見たいもの以外もつねになんかぐにぐに蠢いてますし、あとすごくタチ悪いなー(褒め言葉)と思ったのが、主にとある原寸大の室内を舞台に話が進行していくなかでふいになんていうかな、騙し絵でよくある「一定の視点から見える実際の遠近感を逆算して別次元の遠近法を展開するアレ」が出てくるんですよね。地面にチョークで書いてあるだけなのにめっちゃリアルに階段があるみたいに見えたりするような、そういうアレ。壁に描かれた絵をメインに語っていくシークエンスでところどころそういう技まで出てくるので、ストーリーや単なる造形だけでなくあらゆる要素が脳の認識したり演算したりっていう機能をぐわんぐわいと揺さぶってくるんですよ。こちとらもう脳細胞けっこう使い古してきてるお年頃ですし、ちょっと体験したことない疲労感でしたねえ。面白かったですけどね。なのでこの後鑑賞される方は睡眠とか体調とか糖分補給とか、そのあたり配慮したほうがいいかもしれません。

アニメ表現としてのガワの話ばっかりになってしまいましたが、内容についてもやはりこちらを深くついてくるところや説明しきらないところがかえって印象深くて記憶に残ろうところなどが面白いと思いました。全体をしっかり捉えてきれているかどうかはわかりませんけど。でもラストのラストまでしっかり考えさせられる中身になってたなーと思います。

万人向けとは思いませんし、密室での虐待とかハラスメントとかの要素がツラく感じる方はむしろ避けたほうがいいかとも思いますが、でも関心あるなら観ておいて絶対に損はないと思います。なんじゃこれピンと来ねーしワケわかんねーよっていう印象だったとしても、それもひとつの鑑賞体験として残しておく価値はあるんじゃないでしょうか。単なる「つまらない駄作」とはわけがちがうので。
みーやん

みーやん