せーじ

機動戦士ガンダム 逆襲のシャアのせーじのレビュー・感想・評価

4.5
321本目。

■むかしばなし「うちゅうせいき」
むかしむかしある所に、環境汚染が進んで人口が増えすぎた地球という惑星がありました。困った地球連邦政府は、地球の周辺にスペース・コロニーという居住地をいくつも作り、そこに増えすぎた人々を住まわせることにしました。しかしそれは「人類の新たな旅立ちだ!」と言えば聞こえはいいですが、その実態は特権階級の人間たちがが楽に地球に住めるように、邪魔な一般庶民を厄介払いしたに過ぎなかったことだったのです。宇宙に追いやられた人々の不満は、年月を追うごとに少しずつ蓄積されていきました。そして移民が始まってから数十年後、ある一つのコロニーに住む人々が「ジオン公国」を名乗り、地球連邦からの独立をかけて戦争を仕掛けてきたのです。
こうして、地球に住む人々である「アースノイド」と、宇宙に住む人々である「スペースノイド」との長い長い戦いの火蓋が切って落とされてしまいましたとさ。
とっぴんぱらりのぷう。

※※

…というようなことを最低でも知っておかないと、おそらくいきなりこの作品から観てもほとんど意味が分からないのではないかなと思います。本作は「機動戦士ガンダム」(ファーストガンダム)から続く、一連の「宇宙世紀ガンダムシリーズ」における区切りの一作であり、ファーストから続いてきた「アムロ」と「シャア」の対立に一つのピリオドが打たれた作品でした。自分はガンダムシリーズはそこまで深くは知らないのですけど、弟がドハマりしていて自動的に外側から触れる機会があったりして、観ていなくともうっすらと概要は知っており、この作品の後の話にあたる「ガンダムUC」はそれなりに楽しんだりもしたのですが、本作をまともに観るのは今回が初めてとなります。
というわけで鑑賞。




…うわぁ…
観ていて思わず「クズいな!このシャア、クズいな!?」(cv.高嶋政伸fromこの空の花)と思ってしまいました。
エンディングテーマの歌詞の内容も、この作品を観てからだと今まで抱いていたシャアやアムロといった登場人物のイメージが大きく変わってしまいそうです。

■ニュータイプなのに「わかりあえない」哀しみ
ニュータイプとは、ざっくり簡単に言ってしまうと「普通の人よりも正確に、相手の心情などの心の動きやちょっとした環境の変化を"察する"ことが出来てしまう人」のことを指して言います。先ほどのむかしばなしで宇宙に追いやられた「ジオン公国」のエラい人(シャアのお父さん)が、「宇宙に進出した人類の中から、そういう人間が現れるだろう」みたいなことを公の場で言ってしまったのですね。で、実際にそういう人が現れたことで「これがそうなんだろう」と人々が信じ込んでしまったのです。そして悲しいことに、その能力は戦争を有利に進めるのにとても役立つ能力だったのですよね。何しろモビルスーツを操縦させれば、たとえミノフスキー粒子を撒いてレーダーを無効化したとしても、光の速さで到達するビーム兵器すら軽々と回避できてしまうのですから。連邦軍のアムロとジオン軍のシャアは、いわゆる「一年戦争」において、互いにその能力を開花させ、使うことでその能力を磨き上げながら戦い続けてきましたが、その戦いの終盤となるある時、同じ能力を持つララァという少女を二人は目の前で死なせてしまいます。これが更に二人の対立軸となってしまうのです。
その後色々あって、ジオン公国は滅びますが、落ちのびたシャアは色々あった果てに「ネオ・ジオン」を引き受け、地球に隕石、果てはコロニーそのものを落とそうともくろみます。地球連邦軍の中でも相変わらず孤立無援な戦いを強いられているアムロやブライト達が所属する「ロンドベル隊」はそれを止めようとしますが…と、ここまでが本作の大まかな概要となります。まぁ、本作のシャアはとてもクズかったですね。てめぇの目的の為に前途ある若者を道具として利用しまくっていた訳ですから。本作ではクェスという少女を「来るかい?」と言ってたぶらかし、彼女のシャアに対する恋慕に付け込む様な振る舞いを続けながら彼女自身の能力を利用していた訳ですからね。まったく、愛人だって居るクセに、いったい何人の女性を傷つければ済むのでしょうかね!ってなってしまいました。
一方、クェス自体もニュータイプの素養を持ちながら、シャアを追うために周囲の女性たちや気に掛けてくれる同世代の男性たちの声を聞かないまま破滅へと突き進んでしまいます。普通の人よりも"察する"ことに長けているはずの彼女が、です。自分はそこに皮肉さと哀しさを感じてしまいましたね。

■この作品が結論として伝えたい事とは
そうして、様々な悲しみを描いた果てに、この作品は何を伝えたかったのかを考えていくと、「どんなに人が進化しても、人と人とがわかりあうのは難しいことだけれども、わかりあえないまま協力することくらいは出来るのではないか」ということだったのではないかなと思います。ネタバレを防ぐために細かなことには触れませんが、終盤のあの展開はまさにそういうことだったのではないのかなと思うのです。ただ「その結果がどうなるかは知ったこっちゃないけどね!」とも作り手が言っているようにも思えて、とても複雑な気持ちになりました。結局、どんなに人間が進歩をしたとしても「それで解決!オールオッケー」とはならんやろ。そんな単純な話ではないわい…ということを伝えようとしていて、それがとても現実的でリアルな結論に思えましたね。自分も含めて、人間ってほんっとに愚かだけど面白いなと感じます。

※※

ということで、色々と考えさせられる濃密な作品だったなと思います。
もちろん作品自体のクオリティは半端ない出来だと思います。ただし、本当に重要な要素以外は、ほとんど説明されないまま話がどんどん進んでいきますし、ヘタをするとそこが何処なのかも説明されないまま話が進んでしまうので、解説などにもあたりつつ観ていった方がいいと思います。
個人的には、エンディングテーマの「Beyond the Time」の歌詞の受けとめかたなどが大幅に変わってしまいそうで、オエッってなりそうです。心当たりのある方はご注意を。
いずれにしろ、宇宙世紀ガンダムシリーズの物語に触れるのであるならば、本作から観るのではなく、ファーストガンダムの劇場版三部作をご覧になってから観るのがおすすめです。興味がある方はぜひ。
せーじ

せーじ