Oto

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのOtoのレビュー・感想・評価

3.7
街の権力者である叔父を仕事先として頼って移住したら、マジでヤバいやつかも…という物語。
「オセージ族連続怪死事件」という実際の事件に基づいた「負の遺産」的な映画。前情報なしで見たから、事実と知ってエンドロールで驚いた。

①まず誰しもが気にする3時間半という長さ。

正直同じような出来事がずっと起こっている(理不尽な形で原住民が殺されていく)ので、ここまで長くする必要ある?と思わなくもないけど、このしつこさは必要なものだと感じたし、そこまでの長さは感じなかった。
『空白』の吉田監督が「残酷すぎるくらいの不条理を見せないと、希望の光に気がつけない」と言っていたのを思い出して、そういう狙いがあるのではないかと想像した。

映画のトーンも『空白』とかなり近くて、善人と思えるようなキャラがほとんど出てこない。
加害者たちは本当に残酷だし、被害者たちや関係者たちも、まともに働こうともせずに楽して人を利用しようみたいな人ばかり。
そういう人たちがどんどん悪循環に入っていって、罪に罪を重ねないと取り返しがつかない状態になっていくのは、他人事に思えない部分があった。

最後の劇オチ(スコセッシも出てたね)にも、結局どんな負の歴史もエンタメとして消費されて忘れ去られていく、という僕ら観客への皮肉だと感じて、そのように忘れられるものにしないためにも、必要な長さに感じる。

②時代劇にとどまらない普遍的なテーマ。

ルフィのニュースなど「闇バイト」が社会問題になっていたけど、自分は環境に恵まれていただけで、気づかないうちに犯罪に手を染めてしまうことだって全然ある。兼近さんとかよく話してるけど。
だから序盤でディカプリオが覆面で宝石泥棒をし始めたくらいから既に、もう取り返しのつかないところにきたな〜と思ってしまった。あの一線を越えるとなかなか戻って来れない。。

『ゲットアウト』でも黒人を利用する白人たちが描かれるけど、宝くじが当たるとそれにたかってくる人の電話が止まなくなるという話を聞いたりするし、優位性というものが不利に働くことは多いなということを思った。

それに、この映画の人々はお金を求めて加害を続けていたけど、名声や評価を求めて社内や業界内で争っている現代のぼくらも、あんまり彼らと違わない醜い生き物なのかもな〜と思ってしまった。
表にこそ出さないけど、他者への闘争心とか嫉妬心とかを実はみんなが抱えているんだなと感じたシーンが最近もあって、人を信頼しすぎたり期待しすぎるのもあんまり良くないと感じる今日この頃。

③スコセッシという個人性を大切にする作家。

「最も個人的なものが、最も創造的なものだ」はスコセッシの言葉だけど、近年の作品を見ていると特にそう思う。
前作の『アイリッシュマン』もそうだったけど、年をとったディカプリオやデニーロが監獄や法廷で自らの人生を悔いている様子は、彼らを起用してマフィア映画を撮ってきた監督自身の半生が重ねられているように思えてならない。

例えば『グッドフェローズ』も本当に好きな映画だけど、あのように殺し屋をクールに描こうという意識が今作からはほとんど感じられない。基本的に情けない・どうしようもない・後に引けないという苦しさばかり伝わってくる。
そういうキャラを見ていると、どうしても過去の作品に対する「自省」のようなものを感じてしまって、そうやって向き合うことをやめないのが巨匠たる所以なのかなとも思う。時代と共に変化していくというのは本当に難しいことだと思うし、それができずに消えていく一発屋みたいな人はたくさんいるけど、半世紀も世界のトップに居続ける人の姿勢は尋常じゃない。

④その他印象に残ったこと

・妻役のリリー・グラッドストーン、初めて見たけど、いい役者すぎる。表情で語れる人。時代と健康状態に応じて、容姿が別人のように変化していくのもすごい。

・「フラワームーン」の意味が提示されるシーンはあったけど、正直このわかりづらいタイトルでいいのかな…と思ってしまった。観た後でも思い出せなかったし、モチーフとしてすごく印象的なものでもない。

・『ラストワルツ』から共にしていたロビーロバートソンに捧げられているのさすがに泣けた。。こうやって人生を共にできる盟友のような創作のパートナーと出会いたいものだなと思った。

・ディカプリオがプロデュースをしてるのもすごいな〜と思う。彼ほどの世界的俳優がやらないと損になる役回りだけど、社会への意味や影響を考えられるだけの余裕を感じる。

・デニーロの「友達としての助言だ」という嘘に対しての、「あなたは友達じゃない」というセリフが結構しびれたな〜。別に自分にとって重要でない人に対してああやって拒絶を示せる人でいたい。

・死体や突然の爆音など、意図的に観客を驚かせようとしている露悪的な描写が多いと感じた。グッドフェローズのような爽快な作品の方が個人的には好きなんだけど、余韻が大きな作品は今作のようなタイプなのかもしれない。

・インスリンの扱いについて気になったのが、どこまでが意図的でどこまでが愚かさによるものなのかという部分。正直恐怖に脅されて動いているというよりは、自らの正義のために動いているように見えるシーンが作品全体を通して多かったけど、妻に悪い影響をもたらすと知った上で続けていたのだろうか。妻や家族への愛は本物に見えたけど、最後に愛想をつかされるのは、嘘と愚かさの二面性があるなと感じた。
Oto

Oto