ギズモX

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのギズモXのレビュー・感想・評価

4.9
【God's eye view】

マーティンスコセッシの作品には『神の視点』"God's eye view"という手法がよく用いられる。
対象を垂直から見下ろす形で撮影するこのショットの利点は、物語の視点を対象から外し小さく撮ることで、その場の状況を外から広く捉えられることだ。
そこからはキャラクターの視点からは読み取れない一つの真実が浮かび上がってくる。
それはまるで第三者による語りのように。

教会と暴力、相反する世界に生きたマーティンスコセッシの最新作。
石油を掘り当てたアメリカ原住民の居流地を舞台に、巨大な利権を巡って陰謀が張り巡らされる、事実を基とするストーリー。
ギャング。殺人。狂人。ファミリーの崩壊。罪と許しのせめぎ合い。映画とシンクロする音楽。
マーティンスコセッシの作品は毎回テーマが同じなのに、何故ここまで惹きつけられるのだろうか。
本作を見るまではスコセッシらしくない物語だなと思っていたが、蓋を開けてみれば全盛期に負けず劣らずのキレの良さで、正直ここまでメッセージ性の強いパワフルな作品に仕上がると思わなかったから非常に驚かされた。
長尺な映画ではあるもののテンポよく物語が進んでいくので、体感的には『ミーンストリート』よりも短く感じたな。

過去作と違う箇所もあって、それがファミリーの立ち位置。
少しネタバレになるかもしれないが、本作のファミリーはこれまでのスコセッシのギャング映画と同じく、あの手この手を使って他人の富を奪おうとする姿が映し出されている。
事の巻末に至っては『グッドフェローズ』に瓜二つ。
しかし、スコセッシのギャング映画には、一般の社会とは異なるワイズガイズの"文化"にスポットが当てられていたのも事実。
社会から跳ね除けられた移民達がいかにしてファミリーとシステムを築き上げ、今を生き抜いてきたか、そのしきたりに満ちたリアルな"文化"こそがスコセッシのギャング映画の源だ。
けど、本作でその"文化"を持っているのは原住民側。
白人の目を掻い潜り、石油を掘り当て、西洋文化に精通して社会に対抗する姿は正にワイズガイズそのもの。
だから今作のファミリーは『ゲットアウト』の白人共のように、優しい言葉をかけるその裏で他人の文化を丸ごと搾取しようとする、今まで以上に邪悪な存在でしかない。

FBIを正義のヒーローとして描かなかったことも英断だろう。
当時の長官はFBIを秘密警察に変えたあの悪名高いエドガーフーバーだ。
彼が60年代にしたことを考えると、連中の目的は己の権力を示したいだけなのが分かる。

しかし、一番驚かされたのはラストシーケンス。
あの〆方自体は『フレンチコネクション』など、昔からある既存のものだが、まさか大人数を使ってあんな演出を施すとは。
この特徴的なラストによって最後に登場したあの男は、それまで自身が手がけた作品の中にはらむ悪人の魅力化すらも超えて、更なる人の本質に踏み込むことに成功した。

映画とは妥協した芸術形態だ。
狂った世の中を皮肉たっぷりにこけ下し、隠れざる真実を照らして世直しを試みる。
より広く、より深く、神の視点で。
それが彼らにとっての贖罪と祈りの手段。
神の視点だ。神の視点だよ。
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