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優しき罪人のmaverickのレビュー・感想・評価

優しき罪人(2018年製作の映画)
4.0
2022年の韓国映画。主演は『神と共に 第一章:罪と罰』『神と共に 第二章:因と縁』『無垢なる証人』のキム・ヒャンギ。監督は本作が長編デビューの女性監督チャ・ソンドク。


交通事故で両親を失った少女が加害者と向き合う話。弟の面倒を見ながら懸命に生きる主人公のヨンジュが様々な困難に直面する。まだ未熟な姉弟が、両親のいない中で生きることは難しい。ヨンジュを演じているキム・ヒャンギの無垢な部分が際立ち、それゆえに彼女に降り注ぐ不幸にやるせない気持ちになる。ヨンジュは自分の両親を奪った加害者と対峙することになるが、その加害者は優しい人で憎めない相手であった。

罪を犯せば罪人。被害者からすれば憎むべき対象である。加害者は問答無用で責められる。そのことを考えさせる話だ。2006年の山田孝之主演映画『手紙』や、2010年の妻夫木聡主演映画『悪人』などと同様に、罪を背負う側の立場が描かれている。本作の主人公は被害者であるが、そこから見た加害者の内情でそれを感じさせる。両親を奪ったことは罪。だがそれは故意ではなく、事件のことを除けば良い人であればどうだろうかと。一言では表せられないような複雑な心境が表現された、深みのある作品性である。

テーマが優れているし、考えさせる話。そこは評価出来て野心的でもある。だが完成度で言えば粗いかなと。全体的にふわっとしていて、インディーズ的な作品性だと感じた。これまで短編を手掛けてきた監督であり、その雰囲気がそのまま本作にも表れている。短編風やインディーズ的だから駄目なのではなく、全体的に詰めが甘いのが気になった。観る側に委ねた部分があるのは理解出来るが、展開がご都合主義で繋がりが良くなかった。なぜその行動に走ったのかに納得いかないことも多く、見せ方もふわっとしているから初見では分かりづらい。

キム・ヒャンギは大好きな女優で、だから本作にも期待していた。演技力や魅力に関しては今回も満足。だが役のイメージにぴったりかというと微妙だった。幼い雰囲気なのがネックである。実際の年齢は22歳で、この役よりも2つ年上だが、そう見えないんだよね。本編でもちょっと幼く見える高校生な感じ。一人っ子ならそれでも良かっただろうが、弟の面倒を見ている役であり、そのイメージと合致せずに作品の雰囲気から浮いてしまっていると感じた。これはキム・ヒャンギ自身の問題ではない。作品のイメージに合わせて、もっと年相応な雰囲気の女優を選んだ方がよかったと思う。キム・ヒャンギ以外のキャストは適役で、加害者側の夫婦であるユ・ジェミョンとキム・ホジョンはどちらも素晴らしかった。弟役のタン・ジュンサンもイメージにぴったりだったし、叔母を演じたチャン・ヘジンも良かった。


初の長編映画ということで、監督の未熟さが少しうかがえた。けれどこうしたテーマを基に作り上げた作品性は高く評価出来る。監督自身も両親を交通事故で亡くしているのだとか。自身の過去と向き合い、この作品を作り上げた熱意に感服する。被害者の心境は複雑で当たり前だろう。加害者が罪を背負い続ける気持ちも仕方ないと思う。物事の表面しか見ないことについても考えさせる。我々は相手をよく見ずに決めつけてしまいがち。それは改めるべきではある。それらを踏まえた上で、再度本作と向き合ってみると深みが感じ取れる。チャ・ソンドク監督の次回作に期待したい。
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