千月

ジョーカーの千月のネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

社会と向き合うことに困難を抱えた人間が、それでも社会の中で生きようと努力するが、悪意に踏みつぶされ、転落していく。一度踏み外し、編み目からすり抜けてしまったら、あとは落ちて行くしかない世界。

さらに、生まれながらにして捨てられ、引き取った養父母に虐待を受けていたことも明らかになる。自分が甲斐甲斐しく世話をしている母親の裏切り。むしろ困難さの根源ともいえる母親。
今まで生きてきて、アーサーの存在を肯定してくれた人がいただろうか。ウェインに言った「ハグして欲しい」という言葉。アーサーの方に振り向いて、抱きしめてくれる人が誰か一人でも居たら、何かが変わっただろうか。

救いようのない話だが、泣くかわりに笑うホアキン・フェニックスに引き込まれる。
社会に適応しようともがいている時は濁っている眼が、ジョーカーになってから輝いているように見える、その哀しさと怖さ。身体表現も強烈で、何気ない動きから階段でのダンスまで、眼が離せない。

しかし、ここでの社会って何だろう。アーサーをはじき、踏みつけながら、ジョーカーに恐怖し、熱狂する。彼は転落していくようで、頂点に登りつめていくようでもある。ウェインを殺害するのが、ジョーカー本人ではなく、ジョーカーに影響を受けた暴徒の一人ということが、悪意がたやすく伝播していくことを明示しているかのようだ。

ラストシーンの意味は正直分からず。解釈としては、あの後、病院に収容された(時系列通り)、それまでの物語は、すべて収容されているアーサーの妄想だった(夢落ちに近い?)、の2通りくらいだろうか。
どちらにしろ、全てが真っ白な場所でスタンプを押していくように赤い足跡を付けるアーサーの後ろ姿、その後の、どこかデフォルメされた追いかけっこの様子が、滑稽で恐ろしい。

現実のすぐ隣にある、極彩色の悪夢。そんな手触り。
千月

千月