ゼロ

愛がなんだのゼロのレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
4.2
どうしてだろう、私はいまだに田中守ではない。

角田光代さんの同名小説を映像化したもの。主人公・山田 テルコが、たまたま飲み会で知り合った田中 マモルに恋に落ち、恋人関係ではないが、体の関係はある片思いを描いた恋愛作品。

あらすじを説明すると”恋愛映画”に分類されると思うんですが、最後まで観ると”恋愛映画”ではなく、”ホラー映画”だったなというのが、正直な感想です。

登場人物が全て”誰かに片思い”をしている作品で、テルちゃんマモちゃん周辺の人間も、一癖二癖ありました。山田 テルコの友人である坂本 葉子は、仲原という男を都合よく使ってはいるものの、恋人ではない。他にも男はいる。仲原は、葉子にこき使われているが、側にいるだけで良いという価値観を持ち、報われない恋をしている。なぜ、報われない恋をしているのか?の原因は、葉子の父親が妻を都合よく使っていた過去があり、その劣等感からの立ち振る舞い。

邦画にある人物の造詣が薄く、好き嫌いの恋愛映画で終わらせてないのは、原作があってこそ。

また演者が良く、テルコ役の岸井ゆきのさんの自然な感じであったり、マモル役の成田凌さんの自分勝手な我儘な演技が良かった。マモルが好きになるすみれ役の江口のりこさんもサバサバした感じがあり、マモルを相手してないのが伝わってきました。

で、最初は”恋愛依存症のテルコ”という視点だったのですが、彼女は付き合ってもいない男のために夜中でもマモちゃんの家にいくわ、看病した先で頼んでもないのに風呂掃除を始めるわ、自分の仕事を辞めてまでマモちゃんの連絡を待つわ…とゾッとすることをするので、途中から感情移入はできません。終盤で同じ立場にいる仲原と話、コンビニで「思い続け、報われないことに疲れた」という言葉に対し、真っ向から否定をする。

彼女が「マモちゃんに執着する理由は何?」と思っていたら、彼女はモノローグで「どうしてだろう、私はいまだに田中守ではない。」と言う言葉を聞いて腑に落ちました。彼女は「恋愛」をしているのではなく、「自己肯定」ができる人間を探しているだけなんだなって。この物語って「恋愛」をしたいと思っている人間は、葉子の恋を諦めた仲原くらいで、他の登場人物は「自己愛を満たせる相手」を探しているだけ。一番ゾッとしたのは、最後の飲み会のトイレでテルコが、「バカな自分」を客観視しながらも、それを演じ続けていること。彼女、たぶん別の映画だったら、平気でマモちゃんの周りの邪魔な人間を殺すサイコホラーな作品になってます。

めちゃくちゃ歪な人間模様を今泉力哉監督がナチュラルに作品にしているのもあり、よくある若者の恋愛映画として観ようと思えば観ることができる。面白い作品でした。
ゼロ

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