こたつむり

戦慄の絆のこたつむりのレビュー・感想・評価

戦慄の絆(1988年製作の映画)
3.7
♪ ここで全てが決まる 
  ドキドキして眠れない
  目がさえてノドはカラカラ
  まるで自信のない夜

解剖大好きクローネンバーグ監督。
その対象は肉体に限りません。精神だって解体しちゃうのです。深層に潜った意識をグイっと切り開き、ドロドロの欲望とカラカラの虚無を露わにしちゃうのです。

本作はそんな精神解剖による逸品。
「何でも共有する双子は運命も共有するのか?」と疑問を抱いたのでしょう。双子の兄弟が変容していく様を描いた物語でした。

ちなみに監督さんにしてはマイルドな筆致。
グロテスクな場面は一つしかありません。「そんなに節度を保たなくても良いんですよ」と忠告したくなるくらいに上品なんです。撮影中にストレスが溜まらなかったのか、逆に心配になりますね。

その分、欲望が爆発したのが手術用具。
「百聞は一見に如かず」なので是非とも自身の目で確かめてもらいたいのですが、監督さんがノリにノっているのは分かるはず。クローネンバーグ監督の真骨頂は健在でした。

やっぱり解剖が大好きなんでしょうね。
「肉体も精神も何かもかもをバラバラにして中身を確かめたい!」そんな欲望を感じる作品ばかりですからね。

ただ、その先にあるのは切なさと哀しみ。
「愛は何処にあるんだろう?」と肉体を切り刻んでも、そこに在るのは“器”だけ。本当に大切なものは目に見えないからバラバラに出来ないんです。

そんな気持ちが伝わるオープニングの曲は必聴。
というか、本作のすべてはオープニングに詰まっていますので、見落とさないように注意してください。

まあ、そんなわけで。
クローネンバーグ監督作品の中でもマニアックな作品。現時点では鑑賞する機会は限られているため、観る機会は逃さない方が吉です。

最後に余談として。
「あまりグロテスクではない」という前評判を耳にしたので、愚息のクローネンバーグデビューだったんですが…中盤から後半にかけて“笑いっぱなし”だったので一抹の不安が…。けっして笑える物語ではないんですが…うーん。育て方を間違ったかなあ。
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